この質屋は、山口県下における最初の公益質屋として建設されたことから、各市町村の注目するところとなり、その設立の経緯と営業内容について、しばしば県当局から報告を求められた。すなわち、設立にかかった資金は三万円で、このうち国庫補助二五〇〇円と県費補助六〇〇円は、そのまま庁舎の建築費に充当され、三〇年四月当初の開業運転資金は、二万五〇〇〇円であった。また、その経営は「下松町公益質屋条例」で規定されており、衣類や装身具など、金銭に見積ることが可能な動産の質物に対して、その評価額の八〇パーセント以内を限度に、一カ月の利率を一〇〇分の一二五として、低利に貸し付ける制度であった。さらに公益質屋としての性格上、一口の貸付額は一〇円以内で、一世帯の貸付額は五〇円を限度とするものであった(下松町公益質屋条例「昭和四年町会会議録」)。
その開業後、三〇年九月までの六カ月間の貸付状況は表3に示した通りであり、利用者の職業は、小商業者の三七パーセントを最高にして、労働者の二五パーセント、漁業者の二一パーセントが続いた。またその質物の口数は、衣類の八一パーセントを筆頭として、装身具一二パーセント、家具三パーセントが続いており、一口平均七円五九銭の貸付額であった(「昭和五年下松町庶務一件」)。
表3 下松町公益質屋の貸付状況 |
(1930年度上半期分) |
職業別利用者 | 計 | ||||||||
労働者 | 俸給 生活者 | 小工業者 | 小商人 | 農業者 | 漁業者 | 其の他 | |||
人 | 人 | 人 | 人 | 人 | 人 | 人 | 人 | ||
貸 付 状 況 | 4月 | 5 | 0 | 2 | 4 | 0 | 13 | 3 | 27 |
5〃 | 66 | 12 | 0 | 102 | 6 | 74 | 30 | 290 | |
6〃 | 44 | 9 | 0 | 65 | 12 | 70 | 42 | 242 | |
7〃 | 90 | 4 | 0 | 88 | 12 | 44 | 27 | 265 | |
8〃 | 85 | 2 | 0 | 118 | 10 | 48 | 41 | 304 | |
9〃 | 88 | 1 | 0 | 198 | 12 | 75 | 36 | 410 | |
計 | 378 | 28 | 2 | 575 | 52 | 324 | 179 | 1,538 |
[資料:「下松町役場庶務一件」1930年] |
その後、県下各地にも公益質屋が設立されるようになったが、この下松町の公益質屋は順調な経営を続けて、二年後の一九三二年には、年間七一一一人の利用者となり、さらに三七年には、八七〇九人の利用者となって、庶民の金融機関として歓迎され続けた。