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公益質屋の設立

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 一九二九年二月、下松町は、不況下における社会事業の一つとして、町内在住者に小資金の融通を図る目的で、町営の「公益質屋」を設立することを決定し、翌三〇年三月末までに、予算額五〇〇〇円でもって、西豊井字小路口に、木造瓦葺きの事務所と倉庫を建設した(「昭和四年下松町庶務一件」)。
 この質屋は、山口県下における最初の公益質屋として建設されたことから、各市町村の注目するところとなり、その設立の経緯と営業内容について、しばしば県当局から報告を求められた。すなわち、設立にかかった資金は三万円で、このうち国庫補助二五〇〇円と県費補助六〇〇円は、そのまま庁舎の建築費に充当され、三〇年四月当初の開業運転資金は、二万五〇〇〇円であった。また、その経営は「下松町公益質屋条例」で規定されており、衣類や装身具など、金銭に見積ることが可能な動産の質物に対して、その評価額の八〇パーセント以内を限度に、一カ月の利率を一〇〇分の一二五として、低利に貸し付ける制度であった。さらに公益質屋としての性格上、一口の貸付額は一〇円以内で、一世帯の貸付額は五〇円を限度とするものであった(下松町公益質屋条例「昭和四年町会会議録」)。
 その開業後、三〇年九月までの六カ月間の貸付状況は表3に示した通りであり、利用者の職業は、小商業者の三七パーセントを最高にして、労働者の二五パーセント、漁業者の二一パーセントが続いた。またその質物の口数は、衣類の八一パーセントを筆頭として、装身具一二パーセント、家具三パーセントが続いており、一口平均七円五九銭の貸付額であった(「昭和五年下松町庶務一件」)。
表3 下松町公益質屋の貸付状況
(1930年度上半期分)
職業別利用者
労働者俸給
生活者
小工業者小商人農業者漁業者其の他



4月5024013327
5〃6612010267430290
6〃449065127042242
7〃904088124427265
8〃8520118104841304
9〃8810198127536410
  計378282575523241791,538
[資料:「下松町役場庶務一件」1930年]

 その後、県下各地にも公益質屋が設立されるようになったが、この下松町の公益質屋は順調な経営を続けて、二年後の一九三二年には、年間七一一一人の利用者となり、さらに三七年には、八七〇九人の利用者となって、庶民の金融機関として歓迎され続けた。