「銃後」の生活の基本単位としての隣組は、空襲に備えての「家庭警防組合」が結成される中で形づくられ、一九四〇年十月の「部落会町内会等整備要項」に基づく隣保班として誕生し、太平洋戦争開始後の「総力戦」体制の中で、一段とその機能を強化した。その結果、行政の最末端組織として、市民の生活を戦時色一色に塗りつぶすことになった。下松市の場合は、「振興課」を設置して町内会事務を担当させており、四二年一月から、「下松市常会」の定例日を毎月二十日に定め、その決議事項を受けて各「町内会常会」を当月末日までに、さらにその決議事項を受けて各「隣保班常会」を翌月八日までに開かせることとし、系統的な「上意下達」の体制を築き上げている(「昭和十七年事務報告書」下松市役所)。ついで、同年十二月には、従来の「区長・区長代理者設置規定」を改正して、町内会の区域変更と町内会長・副町内会長の一斉改任を行い、新しい町内会長と副町内会長に対しては、降松神社の若宮で選任状の「交付式」と「宣誓式」を挙行することで、その権威付けを図っている(同)。
このような行政末端機構の強化策が行われる中で、四三年二月には、下松市内寺迫町内会の第九隣保班が、「戦争生活」に邁進する「勤労家庭模範隣組」として、山口県の指定を受けるほどになり、「戦時生活実践隣保班」の手本とされている(「関門日報」二月九日付)。この隣保班は、一〇戸の班員が一丸となって、「旧習」を打破し、予算生活による「無駄なしの生活」を実践するところに特徴があった。その班内の申合事項としては、つぎに掲げるような一〇項目の実践を決め、毎週土曜日に各戸順番による常会を開いて、一週間の生活を反省し合うことにしているという徹底ぶりであった。
第一、早寝早起 午前六時起床、午後十時消灯。
第二、貯蓄励行 各戸に竹筒を備え付け、戦争生活で節約したお金を入れ、これを毎月班長が集金して国民貯蓄に振り当てる。
第三、節煙節酒 家庭では必ず刻み煙草を喫煙する。配給も不要の場合は受けない。
第四、冠婚葬祭の節約 葬儀にはいっさい飲食をしない。来客に対して特別の御膳立をしない。結婚の披露は全廃する。
第五、食糧増産 班内共同作業によって荒地を開墾し、増産運動に協力する。自家用野菜は自給自足を図る。
第六、貯蓄増強運動 国民貯蓄の完遂、国債・債券の完全消化を図る。
第七、共同炊事 玄米食の励行で節約し、軍用機の献納を図る。
第八、金属回収 徹底を図る。
第九、物品交換 不用品・廃品の交換による更生を図る。
第十、金肥節約 木灰を供出する。
(同、二月九日付)
このように、隣組の常会は、防空演習や勤労動員をはじめとし、生活物資の配給や国債の消化に至るまで、あらゆる戦時生活を実践する場として位置づけられており、その緊密な人間関係の強い連帯規制のもとに、あらゆる市民が、耐乏生活を余儀なくされ、戦争の遂行に加担させられていたのである。