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健康維持とラジオ体操

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 戦争の激化に伴う食糧や医薬品の不足、あるいは長時間労働や衛生状態の悪化などによって、国民の健康は蝕まれ、伝染病の発生にも苦悩しなければならなかった。とくに、政府にあっては、「徴兵」や「徴用」の必要上から、青年男子の健康を問題にして、一九四〇年には、「国民体力法」を公布することで、青年男子の体力検査を義務化し、結核や花柳病の患者に療養を命じ始め、さらに翌々四二年には、「筋骨薄弱者」を「国民体力修練会」へ参加させる措置を講じている。また、伝染病も、赤痢や疫痢を中心に、腸チフスやジフテリアの発生が多く、とりわけ、山口県では、四一年の洪水と、翌四二年の高潮が原因となって、県下全域に伝染病が蔓延する状況にあった。
 そのため、下松市においては、とくにこの四二年における伝染病の予防策として、毎年のように実施していた一斉消毒や予防注射の回数を増加するとともに、「防疫予防講習会」を市内各地で開催している(「昭和十七年事務報告書」下松市役所)。その一方で、下松市は、「国策」に応える積極的な体力増強策として、四三年六月に、「健民部」を設け、六人の「体力練成委員」を配置して、「壮丁皆泳運動」を展開したり、七月二十一日から一カ月の「夏季心身鍛練期間」を決めて、各町内会から二人ずつの指導者を選んで講習会を開き、その音頭で全市一斉にラジオ体操を実施するなど、さまざまな健民運動を展開している(「昭和十八年事務報告書」下松市役所)。しかし、このラジオ体操も、その開始当初から実施した町内会は「皆無」という状態であったために、市民の「無関心」さと、主催する市当局や翼賛会下松支部の指導の「不徹底」さが問題になった(「関門日報」七月二十三日付)。そのため、下松市などは、市民の参加率を上げるための働きかけを行い、八月九日の「体操大会」には、市内の各学校や諸団体から約五〇〇〇人を動員して、この健民運動を盛り上げている(同、八月十日付)。
 また、この四三年八月には、「防長青年報国隊下松大隊」が、一六歳以上の男女隊員を対象にして血液検査を行い、「輸血報国隊」を編成して、軍隊や軍需工場からの申込に対応する体制を取っている(同、八月二十六日付)。さらには、日立製作所笠戸工場などの大工場も、この年の秋には大運動会を開催して、全従業員の体力増強意識を喚起するなど、健康状態の向上を意図した行事が多くなった(同、十月十三日付)。