西部海岸塩田跡地(鶴ケ浜)に工場誘致を試み、企業からの打診もあったが土地問題で不成功に終わった。代わって、東部海岸(恋ケ浜東沖周南工特整備計画工業用地K5号)の埋立による工場誘致を図った。七〇年日立製作所、日本石油精製両社からの新工場用地の取得と事業促進についての申し出を受け、同年九月市議会に恋ケ浜埋立事業(一三〇ヘクタール)を発表した。市は十二月埋立事業局を設置し、海面埋立による工業用地造成のための諸手続きを進め、七一年六月埋立工事を開始、七四年十月完了して、日立製作所、日本石油精製に引渡しを行った。この土地には日立製作所の拡張と、日本石油精製の新製油所(日産二〇万バーレル)建設がほぼ確定しており、市民の期待は大きかった。
また、七〇年十月には三カ年継続事業として進められてきた旗岡住宅団地の造成が完成し、住宅の建設が始まった。翌月待望の笠戸大橋が竣功して、笠戸島が本土と地続きとなり、島部市民の多年の念願がかない、あわせて国立公園笠戸島は、周南地区のレクリエーション地として将来が嘱望されることとなった。このため市では笠戸大橋完成の一カ月前、笠戸島観光開発のセンターとして風光明媚(めいび)な大城岬に、国民宿舎「大城」と老人福祉センター「小城」の建設に着手し、翌年七月完成した。
一方、企業活動も旺盛となり、六九年九月、東洋鋼鈑が周南工特地域K3号(二三万一〇〇〇平方メートル)の埋立拡張工事を開始し、七一年一月には中国電力下松火力発電所が二号機(四〇万キロワット)の建設に着工、七月笠戸船渠が九万トン大型建造ドックの建設を起工した。
こうして下松市は、周南工特地域の中核工業都市としての躍進が約束され、山中市政の総合建設計画は実行に移され、豊かで住みよい工業文化都市の実現と、市財政の健全化が同時に図られるものと確信され、市民に希望と期待を与えた。
このころ、わが国の急速な経済成長と産業活動の活発化は、大気汚染・水質汚濁・騒音・震動等の公害問題を各所に発生させ、マスコミに大きく取り上げられた。また所得の増加と生活の安定は、国民に、より良い生活環境を求めさせ、公害問題は社会問題としてクローズアップした。下松市においては、下松火力発電所の二号機建設着工、恋ケ浜埋立事業の計画発表とともに、公害問題が市民意識に強くのぼるようになった。市では七一年一月、学識経験者で構成する公害対策審議会を発足させ、続いて二月日立、鋼鈑、日石精製、笠戸船渠、中国電力の五大企業と公害防止協定の締結など環境保全に万全を期することとした。
また、生活程度の向上と医学の進歩により、国民の平均寿命は年々延び、老人問題が急速にクローズアップされ、ここ数年の間に経済的社会的諸条件が大きく変化した。こうした情勢のため、先に市民参加により策定した下松市総合建設計画の改定が必要となり、七二年三月新下松市総合建設計画「一九七〇年代をひらく」を市議会の議決を得て、下松市の新路線として市民に発表した。骨子は「より働きよい、より住みよい、より楽しみの多い都市」の建設をめざしたもので一一項目からなり、達成目標は表6のとおりである。
表6 下松市が達成しようとする目標 |
項 目 | 現 状 (1970年) | 1980年 |
1 総人口 | 49,627人 | 65,000人 |
2 就業人口 | 25,327人 | 32,000人 |
第1次人口 | 2,889 | 1,500 |
第2次人口 | 12,384 | 16,600 |
第3次人口 | 10,054 | 13,900 |
3 世帯数 | 13,695世帯 (3.6人/1世帯) | 19,100世帯 (3.4人/1世帯) |
4 道路舗装率 | 73% | 100% |
国道 | 100 | 100 |
県道 | 58 | 100 |
市道 | 77 | 100 |
5 自動車台数 | 7,956台 | 19,000台 |
6 自転車台数 | 20,543台 | 28,700台 |
7 電話台数 | 5,421台 (2.5世帯/1台) | 15,400台 (1.2世帯/1台) |
8 住宅 | 13,695戸 | 19,100戸 |
持家 | 7,691 | 12,000 |
借家 | 2,836 | 3,000 |
公営住宅 | 963 | 1,500 |
給与住宅 | 1,922 | 2,200 |
その他 | 283 | 400 |
9 上水道 | ||
給水人口 | 38,552人 | 61,000人 |
給水率 | 72% | 95% |
給水量 | 11,373m3/1日 | 23,000m3/1日 |
10 下水道 | ||
整備面積 | 86ha | 600ha |
普及率 | 6% | 38% |
水洗化率 | 0% | 69% |
11 ごみ処理 | ||
収集人口 | 37,444人 | 61,000人 |
収集量 | 44t/1日 | 108t/1日 |
人口1人1日当り 排出量 | 1.2kg | 1.8kg |
12 公園整備面積 | 14.7ha (3m2/1人) | 943.4ha (145m2/1人) |
13 保育所 | 9か所 | 16か所 |
14 子ども遊び場 | 23か所 | 44か所 |
15 老人福祉センター | 1か所 | 2か所 |
16 幼稚園 | 11か所 | 13か所 |
17 小学校児童数 | 4,246人 | 6,700人 |
学級数 | 128学級 | 191学級 |
18 中学校生徒数 | 2,060人 | 3,000人 |
学級数 | 53学級 | 75学級 |
19 校舎不燃化率 | ||
小学校 | 19% | 83% |
中学校 | 31% | 36% |
20 一般教材備品整備率 | ||
小学校 | 60% | 100% |
中学校 | 60% | 100% |
21 理科教材備品整備率 | ||
小学校 | 60% | 100% |
中学校 | 58% | 100% |
22 高校進学率 | 92% | 98% |
1 12 公園整備面積は、近隣公園、河川公園、運動公園、児童公園、児童遊園、児童広場および自然公園の合計面積である。 2 13 保育所には、児童福祉センターおよび児童館を含む。 3 14 子ども遊び場は、児童公園、児童遊園、児童広場等をいう。 |
同年四月二十七日任期満了による市長選挙は、現職山中市長が激戦の末、当選し、三期目の山中市政が発足した。山中市長は高度経済成長のもと市民生活の急速な向上による、市民の市行政に対する要望の多様化・迅速化、さらには激増するごみ対策、公害対策と環境保全、自動車時代を迎えての交通問題等に対処することを市政の急務とした。
このため、市役所の大機構改革を断行し、三部制(総務企画部・建設経済部・民生部)に代えて八部制(市長室・企画部・総務部・市民部・環境部・建設部・経済部・清掃事務所)を発足させた。改革の主眼点は前述の問題に速やかに対処するとともに、行政水準を引き上げて、市民の要望に応えんとしたものである。