七二年予備調査が終わり、末武川ダムの建設概要が明らかにされ、県、市、対策協議会の間で、曲折はあったが協議が成立し、県の実施調査が開始された。ところが、事業の進捗を図る県と、対策協議会の間に食い違いを生じ、事業は行き詰りとなった。これに対して、市の斡旋が続けられ、七六年七月ようやく補償調査の基本協定が成立し、ダム建設の見通しが立った。十月山口県周南総合開発事務所が花岡に設置され、事業は本格化した。翌年補償調査が完了し、用地買収に入るため、県は対策協議会に補償基準を提示した。しかし、この補償規準は対策協議会には厳しく、協議は継続され、七八年二月県は二回目の補償基準を提示するとともに、代替地の団地造成(花岡浴一万七五五〇平方メートル、米川菅沢八四六六平方メートル)を行うなど、誠意をもって対処した。また、市も立退く高垣住民の心情を考慮して、対策協議会に県補償の上積み五〇〇〇万円の支払いを約束したので、六年間に及ぶ県と対策協議会の補償交渉は了解に達した。同年四月土地売買契約、六月建物等の移転補償契約の集団調印を終わり、県は翌七九年七月、県道下松・鹿野線付替え工事からダム工事に着工した。
末武川総合開発事業の概要はつぎのとおりである(事業費は表26)。
(一) 末武川の河川改修とあわせて、ダムによる洪水調節を行い、下流域の災害を防止する。
(二) ダムによって恒常的な流水量を確保して、河川の正常な機能の維持・増進を図る。
(三) 都市用水を、別途事業で施行する吉原ダムとの相互運用によって、下松・徳山市に一日水道用水五万四一〇〇立方メートル、工業用水一万六二〇〇立方メートルを供給する。
(四) 発電(毎時一六〇〇キロワット)を行う。
表26 末武川ダム事業費 |
治水(国庫補助事業) | 16,582,000千円 | |
下水上水道負担 | 12,197,000 | |
徳山上水道負担 | 4,320,000 | |
県工業用水道負担 | 4,911,000 | |
発電 | 190,000 | |
合計 | 38,200,000 | |
吉原ダム事業費 | ||
下松上水道負担 | 3,926,000千円 | |
徳山上水道負担 | 1,387,000 | |
県工業用水道負担 | 1,587,000 | |
合計 | 6,900,000 | |
取水配分 | ||
末武川ダム | 吉原ダム | |
下松上水道 | 23,100m3/日 | 16,900m3/日 |
徳山上水道 | 8,100 | 6,000 |
県工業用水道 | 9,400 | 6,800 |
合計 | 40,600 | 29,700 |
末武川ダム建設事業(表27)は、当初計画では七三年四月着工、八〇年三月完成予定であった。しかし、用地買収が遅れ、八六年完成予定に変更した。ところが国の財政事情のため予算枠が少なくなり、また周南地域の発展が緩やかとなり、特に下松市恋ケ浜臨海工業用地への工場建設が遅れて、水需要の伸びが低下した。そこで再度計画変更し、八九年三月を完成予定とした。しかし、工事はさらに遅延し、八七年九月五日ようやくダム本体工事の定礎式が挙行された。完工は、九〇年が予定されている。
表27 末武川ダム計画 |
ダム | 貯水池 | 水没補償 | |||
ダムの名称 | 末武川ダム | 集水面積 | 44.1km2 | 家 屋 | 42戸 |
河 川 名 | 末武川水系末武川 | 湛水面積 | 0.678km2 | 田 | 931a |
位 置 | 下松市大字瀬戸字 戎ケ谷(左岸) | 湛水延長 | 2.7km | 畑 | 424a |
高 垣(右岸) | 総貯水容量 | 19,570,000m3 | 山 林 | 8,401a | |
型 式 | 中央コア型ロックフイルダム | 有効貯水容量 | 18,770,000m3 | 原 野 | 28a |
堤 高 | 89.5m | 洪水調節容量 | 5,770,000m3 | 宅 地 | 370a |
堤 頂 長 | ロック部 275.0m コンクリート部 30.0m | 都市用水容量 | 11,350,000m3 | その他 | 1,714a |
堤 頂 幅 | 10.0m | 不特定利水容量 | 1,650,000m3 | 県道(付替) | 5,153m |
法 勾 配 | 上流 1:2.5 下流 1:1.9 | 堆砂容量 | 800,000m3 | 市林道(付替) | 6,130m |
堤 体 積 | 2,694,000m3 | 設計洪水位 | 149.00m | ||
堤頂標高 | 151.5m | サーチャージ水位 | 146.60m | ||
地 質 | 片状ホルンフェルス | 常時満水位 | 137.20m | ||
常用洪水吐 | 自由越流堤(L=80m)付 自然調節方式 | 最低水位 | 93.20m | ||
(オリフィスB=3.9m×H=3.74m) | |||||
非常用洪水吐 | 横越流水路式L=110.0 |
なお、別途事業(吉原、末武川利水事業)で施行する吉原ダム(切戸川揚水)は、下松市の今後の発展状況を考慮して着工する予定となっている。