ビューア該当ページ

転作作物の奨励

914 ~ 916 / 1124ページ
 国は七一年から本格的に米の過剰生産に対応した稲作転換対策の実施に踏み切った。下松市の転換対策は水田の一五パーセント程度で、稲作休耕にはすべて助成金が支出され、宅地化・公共用地化(公園・学校・道路用地)も奨励された。そのため、農家は山間部水田を山林に転換する外、良田でさえ荒廃させるものも多く現れ、農業は農業基本法、農業振興法の主旨とは異なった方向に進むこととなった。
 稲作転換対策が農業の衰微を招来すると見た国は、七六年農産物の自給力向上に重点を置いた水田総合利用対策に変更し、休耕水田に転作作物を奨励し、助成金を支出することとした。下松市では野菜・豆類を転作作物として奨励するとともに、果樹等の永年作物転作も指導したので、久保地区に葡萄(巨峰)・米川に梨(二十世紀)が植え付けられ、地区の特産となった。
 こうした稲作転換対策は、政府管理米の在庫調整、食糧管理制度の維持には一定の成果を挙げてきたが、国民の米消費量が年ごとに減少して、七八年には再度在庫量が六〇〇万トンに達する状況となった。このため国は同年、この先九年間を見通した「水田利用再編対策」を開始した。下松市の水田利用再編対策期間中の水田転作目標面積は、国の米保管量により毎年異なり、八二年の一五八・四ヘクタールを最高にその他の年は一四〇ヘクタール前後で、水田面積六五〇ヘクタールの二二パーセント(最高二四パーセント)程度に当たっている。転作等の実施状況は表4のとおりで、農家の協力と転作奨励補助金により毎年度転作目標面積を達成した。
表4 下松市の転作等実施状況と奨励補助金
期別第1期第2期第3期備考(転作奨励補助金10a : 円)
年度1980転作実施面積 (a)83転作実施面積 (a)86転作実施面積 (a)基本額計画
加算額
団地化
加算額
区分種類別



454.31194.95137.40毎年47,000転作率に応じて
13,500 ~ 6,500
定額10,000
大豆2,776.813,115.862,204.70
飼料作物376.72483.49265.50
そば353.53294.02565.43




果樹等835.80591.21628.255年間



野菜類4,385.854,673.675,170.36毎年27,000転作率に応じて
10,000 ~ 5,000
定額 7,500
造林218.18194.4185.183年間
  33,000
その他881.421,354.642,777.63



毎年 32,000
転作25.0040.0003年以内 32,000
保全管理3,858.573,734.421,792.103年以上 27,000
合 計14,166.1914,676.6813,626.55
転作目標面積12,950.0014,470.0013,590.00
達成率109.3%100.2%100.2%

 その結果、全国的に野菜・果樹等の転作作物が増産され、次第に過剰生産となり、価格が低迷することとなった。下松市の場合、近郊農業として有利な立場にあるといっても他地域からの流入が多くなり、青果物生産量は八一年をピークに漸減傾向を示している。
 さらに八七年、国は向こう六カ年を見通した「水田農業確立対策」を実施することとなった。この対策は、今までの行政指導型対策から、生産者、生産団体(農協)、行政が一体となり推進しようとするもので、生産者、生産団体が主体的責任をもって取り組み、生産性の向上、地域転作農法の確立、米の計画生産を行おうとするものである。こうして六年後には、転作助成補助金から脱却する農業を目指した農政が、進められた。
 下松市の稲作転作目標は一六四ヘクタール(二七パーセント)と引き上げられ、転作配分もいままでの市の配分から、市と農協双方が行い、転作計画書は農家が農協を通じて市へ提出する等、農家・農協に自主性が求められることとなった。また転作奨励金は助成補助金と変わり、転作基本額が半減され、加算額にウエートを置き、農業の生産性向上による農家の自主性を促す方策が採用された。
 下松市ではこの厳しい農業環境のもとで小規模とはいえ農業の安定的振興を図るため、七二年米川・久保地域(都市計画の調整区域)を農業振興地域と定め、農用地区域を将来にわたって確保していくことにした。また区域内での必要な基盤整備を進めるとともに、経営規模拡大の促進、地域営農集団や、意欲ある後継者の育成を行うこととしている。このほか、野菜、果樹、畜産等の面で特徴ある生産品を生み出すことや農産物の加工による下松の特産物を作ることを考えており、さらに農業と観光を連携させる試みとして、観光農園の整備と運営を検討している。