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養殖と栽培の漁業

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 下松市の戦後漁業は笠戸島を中心とした沿岸漁業で、一九四九年三月の調査によると、漁船は動力船一五七隻、無動力船六八隻で、ほとんどが五トン以下の小型漁船であった。また経営形態も個人経営(一二七世帯)が主で、一本釣、釣延縄、底引網、タコ壺(つぼ)漁業等を営み、タイ、タコ、カレイ、イカ、エビ、ナマコ、貝類等が主に漁獲された。
 九団体ある共同経営はイワシ船曳網(煮干加工)、小型定置網(つぼ網)を行い、市内全漁獲高の四割に達した。その後イワシの漁獲が減り、五八年には共同経営のイワシ船曳網がなくなって、下松の名産であった煮干(イリコ)の生産は姿を消して全漁業者が個人小規模経営となった。
 市では漁業の振興を図るため、同年、三五七個の魚礁(コンクリート製、一・四×一・二×一・二メートル)を笠戸島周辺に沈設した。以後も沈設事業を進め、定着性のある魚種の増殖を図っている。しかし、工業の躍進に伴い、他の一次産業と同じく転業者が増加して、表9のように六八年には漁業戸数六六、総漁獲高も五六五トンに減ったが、それ以後は微増傾向を示している。漁業の経営形態も表9のように釣、延縄漁から、底曳網、刺網、定置網等、網漁業が主となり、特に小型定置網(つぼ網)漁が増加した。このような漁業関係の停滞は、工業の発展と人口の増加による水質の汚濁やたびたびの赤潮発生等による漁場環境の悪化、漁業技術の向上と網漁業の増加による漁業資源の減少によるものであった。
表9 主な漁業種類別経営体数(農業センサス)
(単位:世帯)
年次総数底びき網敷網刺網はえなわ定置網真珠養殖船びき網まき網その他
19639111628159121
  686612121715712
  73951153491026
  788414131722117
  8376751681624

 市では漁協の要請に基づき、笠戸島周辺に魚礁の沈設を積極的に進めるとともに、稚魚の放流によって資源の増殖を図ることとなり、山口県内海栽培漁業センターから、定着性のあるマダイ・ヒラメ・クルマエビ・ガザミ・サザエ・アサリ等の稚魚を取りよせ、放流事業を開始した。
 また、漁業者は漁協を中心に笠戸湾内の海岸、海底の清掃を毎年行い、ゴミ捨て防止、合成洗剤による海水汚濁の防止の啓蒙運動を行うなど、市、漁協が一体となって環境保全に努めている。
 一方、漁協を中心に、漁獲漁業の停滞から脱却するため、養殖漁業も開始した。七〇年代は、ノリ養殖が盛んに行われたが、全国的な大増産となり、数年で不振に陥り、続いて赤貝の養殖が始まり、八三年には、年産二一トンに達したが、その後、漸減傾向を示している。
 そこで、放流事業の資源効果と養殖漁業の技術を高めるため「(財)下松市水産振興基金協会」(市と下松漁業協同組合の共同出資)を設け、八三年一月笠戸島細折に栽培漁業センター(事業費一億一〇〇〇万円)を設置した。センターでは定着性のある表10の魚貝類の中間育成を行い、笠戸島周辺に放流している。また漁業者の養殖技術の向上と、売却益によるセンターの維持費に充当するため、ヒラメ(三万匹)、タイ(一万匹)、トラフグ(五〇〇〇匹)、ブリ(六〇〇〇匹)等の養殖を行っている。このうちヒラメは笠戸ヒラメとして漸次名声を高めている。これにより、漁業者の養殖漁業も最近急速に高まり、八六年には表11のように漁獲量の九パーセント、漁獲金額の二八パーセントに達する成績を示すようになった。
表10 中間育成放流魚
(単位:匹 あわび・個)
年次83848586
種苗
まだい22,30038,00040,00054,300
くろだい15,00020,60020,300
ひらめ9,50010,00010,00013,000
くるまえび500,000647,000946,000934,000
がざみ150,000150,000100,000100,000
あわび31,00020,00020,00030,000

表11 漁業種類別漁獲金額
(単位:千円)
198283848586
総 数256,741282,596311,973344,765357,111
区分・漁種



240,217243,914264,732271,629257,923
小型底曳72,05763,30557,85635,65644,594
建網(刺網)34,24529,72837,97432,92940,895
小型定置44,95248,09454,22557,11651,247
タコツボ12,37812,81513,84413,03313,289
延 縄35,34148,21458,86092,12975,468
一本釣31,28837,35938,64137,65530,750
その他9,9564,3993,3323,1111,680


16,52438,68247,24173,13699,188
魚 類013,20041,50766,25194,112
赤 貝16,52425,4825,7346,8855,076
(資料:漁協)