六九年大気汚染防止法が施行され、新南陽市・徳山市・下松市・光市の周南四市は、翌年二月大気汚染防止法指定地域に指定され、公害対策行政が始まった。
大気汚染は広域にわたるため、防止のための法的権限はすべて国・県にあった。このため県は七〇年四月、溶液導電率法による連続SO2測定器を下松中学校(後、市民館移設)に設置して、測定を開始した。
ところが、昼間大気温度が上昇すると、測定値が規準値を超える状況がしばしば発生した。このため県は四月から七月上旬の間に一三回の大気汚染注意報(一測定点〇・二ppm以上二時間継続の場合)を発令し、市民に驚きと恐怖心を与えた。この対策として、県は市内四大企業に燃料重油硫黄分の低減要請を行い、表11のように燃料切替協力を得た。続いて七月、連続測定器を大海町水源地にも設置して二器測定とし、監視を強化した。
表11 市内主要企業の重油使用量と硫黄分切替えの状況 |
企 業 名 | 重油使用量 / Y | 硫黄含有量 | 燃料切智 (硫黄分) |
kl | % | % | |
中電下松発電所 | 250,000 | 2.1~2.2 | 2.1 |
鋼鈑下松工場 | 30,000 | 3.86 | 2.37 |
日精下松製油所 | 68,300 | 2.80 | 2.20 |
日立笠戸工場 | 7,000 | 2.92 | 2.20 |
市は公害行政体制を急きょ整えるとともに、市長の公害対策顧問(広島、山口大学教授等)の委嘱を行い、市議会も公害対策調査特別委員会(翌年六月廃止)を設置し、先進地の調査を行った。
この大気汚染注意報多発事件も、七〇年七月、連続測定器の吸引管に欠陥があることが明確となり、管の交換によって解決した。以後下松市のSO2汚染の状況は、環境規準(一時間値の一日平均値〇・〇四ppm以下で、一時間値〇・一ppm以下)内で、注意報が発令されるような高濃度の汚染は一度も発生していない。
七〇年二月、中国電力(株)から下松火力発電所二号機増設の申入れがあり、続いて同年九月恋ケ浜臨海工業用地造成計画が確定すると、市民の公害防止対策の強化要望が強まり、市は公害対策課および試験室の設置等公害防止体制を整備し、SO2連続測定器を設置するほか、降下ばいじんの測定を開始するなど、公害対策行政を強化した。
さらに、市は翌年三月市内五大企業(日立・鋼鈑・日石・中電・ドック)とそれぞれ大気汚染防止計画を中心とする公害防止協定を締結し、使用燃料の硫黄分低減、高煙突化、電気集じん器の設置等を決定した。続いて六月には恋ケ浜臨海工業用地に立地する日立・日石精の新工場とも公害防止対策に関する協定を締結した。
このような行政・企業の努力によって使用燃料の硫黄分は規制前の二パーセント以上から年々低下し、現在では平均〇・三パーセントとなった。また煙突は中電(二〇〇メートル)、鋼鈑(一二〇メートル)、清掃工場(一〇〇メートル)と高煙突化された。このため、亜流酸ガス濃度、降下ばいじん量は表12・表13のように年々低下した。
表12 二酸化硫黄濃度 経年変化 |
(単位:ppm) |
観 測 局 | 1972 年度 | 73 年度 | 74 年度 | 75 年度 | 76 年度 | 77 年度 | 78 年度 | 79 年度 | 80 年度 | 81 年度 | 82 年度 | 83 年度 | 84 年度 | 85 年度 |
豊井小学校 | 0.025 | 0.027 | 0.023 | 0.022 | 0.022 | 0.019 | 0.011 | 0.010 | 0.008 | 0.008 | 0.008 | 0.008 | 0.007 | 0.006 |
下松市民会館 | 0.020 | 0.022 | 0.015 | 0.015 | 0.015 | 0.013 | 0.008 | 0.009 | ― | ― | ― | ― | ― | ― |
下松市役所 | ― | ― | ― | ― | ― | ― | ― | ― | 0.006 | 0.006 | 0.005 | 0.005 | 0.006 | 0.006 |
大海町水源地 | 0.019 | 0.024 | 0.016 | 0.010 | 0.009 | 0.011 | 0.010 | 0.010 | 0.008 | 0.009 | 0.008 | 0.007 | 0.008 | 0.007 |
末武中学校 | 0.023 | 0.022 | 0.019 | 0.018 | 0.018 | 0.019 | 0.017 | 0.008 | 0.010 | 0.010 | 0.009 | 0.008 | 0.008 | 0.006 |
また光化学スモッグが七〇年から毎年夏期、大都市に現れ、人体に被害が発生した。これは排ガス中の窒素酸化物と炭化水素類が大気中で混合し、太陽光線を受けて光化学反応を起こし、強酸化物質(オキシダント)が大量発生すると光化学スモッグ現象となるもので、七二年、県は対策要項を実施し、翌年から下松市の環境測定(測定器、県一・市一)を始めた。測定の結果は八五年現在まで、常に環境基準(オキシダント、二酸化窒素〇・六ppm/時)を達成しており、光化学スモッグ現象は発生していない。