6 名工「長五郎」物語(めいこうちょうごろうものがたり) (下松地区)

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 ある嵐の夜に起ったことであるが、ある人が、「俺(おれ)は、むこうの八丈から切戸川にかけて、地をはうように龍が飛んで行くのを見た。」といいました。すると、ほかの者は、「そんな馬鹿な話があるものか。」といいました。
 いや、「この目で見たのだから、間違いはない。」といいはりました。こんな会話が、河内村から豊井村へと、次々に広がっていきました。そこで、人びとは、「これは天下の不吉の前兆ではなかろうか。」と、村人たちの不安はつのるばかりでした。しかし、
 「いや、これは大吉じゃ。そもそも龍は、仏法守護の神である。
  第一に、天の宮殿を守る。
  第二に、雲をおこし、雨をともない、人を益する。
  第三に、河を決壊し、浜を開く。
  第四に、蔵に伏して、大福を守る。
 といわれているように、これはまさに大吉じゃ」
と村の学者である、当時の西念寺の住職は、村人たちに安心するようにさとしました。
 ある嵐の夜、村人たちと共に、龍の正体を見極めたいと思い、待ちかまえておりますと、「捕えてみればわが子なり」ということわざのように、その龍は、西念寺の欄間(らんま)に掛けられていた、彫刻の龍だったのでした。この住職をはじめ、村人たちが驚いたのはいうまでもありません。
 住職は、早速これを作った「長五郎」を呼んで、
 「二度と飛んで出ないように、止(そど)めの釘を打ってほしい。」
といいました。
 その後、龍の飛んだ姿を見かけた者は誰もいませんでした。
 今でも、昭和通りの西念寺(さいねんじ)の欄間には龍の口のところに、大きな釘が突きささっています。