恋ヶ浜の山手に、慶雲寺というお寺がある。むかし、堂の下に宝が埋まっているといい伝えられていた。寺を建てかえる時、それを探してみることになった。掘り下げていくと、はたして手応(てごた)えがあった。色めき立って力まかせに鍬(くわ)をふりおろそうとしたところ、鮮血がほとばしり、あたりを赤く染めた。皆がこわごわ見ると、大きな亀(かめ)の首があらわれた。
これが、宝ものの本体であった。この亀の首について次のような話が伝わっている。
恋ヶ浜の南に、突き出た陸地が宮の洲(みやのす)である。岬の高台は、宮の洲山といってさながら巨大な亀の寝そべった姿を思わせる。
むかし、上方(かみかた)の絵師が、山の姿にほれこんで船上から写生した。描きあげてふと山を見ると、形が似ていない。小首をかしげ絵筆をとること五たび、山の姿はみな違っていた。ついに絵師は、筆を投げつぶやいた。「山が生きている。」
何年かたち、絵師はまたやって来た。亀の首が切られた後だった。今度はすらすらと、写しとることができたという。