30 狐の嫁入り(きつねのよめいり) (花岡地区)

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 むかし、花岡の上市にある法静寺(ほうしょうじ)の住職は、仏の道をたずねて修業に励み、徳が高く、人々に大変慕われていました。
 ある日、たまたま住職が徳山へ行かれて、用事をすませるともう夕方で、日が暮れてお寺に帰ることになりました。
 慣れた道なので、あまり苦にはなりませんでしたが、遠石から久米に出て坂を越えると法静寺のある花岡の上市は、すぐそこに見えてきました。ここまで来て住職は、自分の手に数珠(じゅず)がないのに気がつきました。あちらこちら探しましたが、どこにも見つかりません。仕方なくお寺に帰ってきました。しかしその夜は、数珠のことが気にかかりなかなか寝つかれませんでしたが、それでもときどきうとうとしていました。
 夢うつつの中で、住職の枕もとへ何かボーと立つものがありました。そして「自分たちは、わけあって「しらむが森」に死んでいる夫婦の白狐である。今晩数珠を届けに来た。そのかわり私たちの骸(なきがら)を、人様と同じように、このお寺に引きとって下さい。この願いをかなえて下されば、お寺や里の人々を災難から守ることを約束します。」という声を聞いて住職は目が覚めました。
 驚いたことに、なくしたはずの数珠が、ちゃんと枕もとにおいてありました。住職は、早速白狐の遺体を引きとって、人間と同じように手厚く葬り、さらにねんごろに供養をしました。それ以後、「失せ物」が見つかるという霊験あらたかなため、このお寺にお参りする人が、だんだんふえて来ました。
 この夫婦の白狐は、いま「福徳稲荷」として、法静寺の境内に祭られ、毎年十一月三日の「稲穂祭」「狐の嫁入り」には、遠近より多くの参詣者があり、大変にぎわっております。