「私は、大そうお腹がすいて困っている。あなた達が持っている栗の実を、ひとつ私に恵んではもらえないだろうか。」
と頼んだそうです。けれども子どもたちは、
「この栗の実は、高い高い栗の木に登ってとったのだから、折角ですが、分けてあげることはできません。」
と、ことわりました。お坊さんは疲れてはいるし、お腹もすいているので、重ねて分けてくれるように頼みました。お坊さんは、
「それでは、来年からは栗の木の低い、とりやすい所に、実のらしてあげよう。」
といって、ていねいに頭を下げて子どもたちにお願いしました。
子どもたちも、お坊さんの姿に心を打たれ、すなおに、
「それ程までにおっしゃるのなら、さし上げましょう。」
と、持っていた栗の実を、半分づつ出し合ってあげました。お坊さんは、大変喜ばれ、
「さあ、みんな早くお家へお帰りなさい。」
といって、東の方へ、立ち去って行かれました。
さて、その翌年からは、そのあたりの栗の木には、低い枝にもいっぱい実りはじめ、たやすくとれるようになり、村人は大変しあわせました。そこで、村の人たちは、「栗の木迫」と呼んで、その辺りの地名としたそうです。
なお、その時通りかかられたお坊さんは、「弘法大師さま」であったと後になってわかり、大師さまの高い徳を、村の人たちは今にいたるまで偲(しの)んでいるということです。