1 田植唄(たうえうた)

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○ 田主さんの 前田には  銭で塔を くむといの
    銭で塔を くめばまた  黄金の花が 咲くといの
○ 田主さんの お田植は  一本苗は おきらいじゃ
    一人ねては 子がないから  一本苗はきらいといの
  今日の田の 田主さんの  お屋敷かかりを ながむれば
    お屋敷かかりが 七町五反  お倉の(注)戸前(とまえ)が 七戸前
  田主さんの 前の田に  金の鶴が 舞いさがる
    金銀ばらばら 両羽交(りょうはがい)に  この家繁昌と舞いさがる
  田主さんの 家の上の山に  藤の花が 咲いたといの
    七色咲いて 八色咲いた  九色十色 咲いたといの
○ 周防で 名高い  岩国の そろばん橋は
    五つ反りの 百間敷石  錦の流れ 三国一の橋といの
  周防で名高い 山口の  お祇園(ぎおん)さんの お祭には
    もみの鉢巻 千人揃い(ぞろい)  エンヤラヤッサで かくといの
  宮島の お回廊(かいろう)は  どなたが建立 なされたか
    飛驒(ひだ)が匠(たくみ)の 竹田が番匠(ばんしょう)  一夜で建立 したといの
○ 太功記の十段目にゃ   泣き泣き引き出す 鎧櫃(よろいびつ)
    可愛いや夫の 十次郎さんと  別れの盃(さかずき)  するといの
  忠臣蔵の 六段目には  お軽が嫁入り するといの
    お軽さんを お駕籠(かご)に乗せて エンヤラヤッサで かくといの
  大の男の 弁慶さん(べんけいさん)は  京は五条の 橋の上
    牛若丸が 扇子(せんす)を投げりゃ  負けて家来に なったといの
  世にも名高い 大泥棒の  石川五右衛門 捕まって
    三条河原で 釜茄(かまゆで)されて  死んでも歌舞伎(かぶき)にゃ いるといの
○昼からの 草取りは  草に花が 咲くといの
    七花咲いた 八花咲いた  ここで十花 咲いたいの
田植唄
 
※ 六月の田植どきともなればあちらの田圃(たんぼ)こちらの田圃と、ねえさんかぶりに襷(たすき)がけ、裾をからげて赤い腰巻ちらりと見せて、早乙女(さおとめ)たちが早苗片手に植えていく。
 田植定規に六・七人が並び声高々と田植唄の聞こえる田園風景であった。
  (注) 戸前=土蔵を数えるときにいう語