○ 国定忠治生い立ち口説き(くにさだちゅうじおいたちくどき)

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   国は上州 佐位郡にて 音に聞えし 国定村の
   博徒(ばくと)忠治の 生い立ちこそは 親の代には 名主をつとめ
   人に知られし 大身者(だいしんもの)で 大事な息子が すなわち忠治
   蝶や花よと 育てるうちに 幼なけれども 剣術柔術
   人に優れて 目録以上 明けて十六 春頃よりも
   ずーっと博打(ばくち)に 手を出してから 今日も明日も 明日も今日も
   負けることなく 勝負に強く ついに悪事と 無宿(むしゅく)が渡世(とせい)
   二十才余りの 売り出し男 背は六尺 肉付き太く
   器量骨柄 万人に優れ 男伊達(おとこだて)にて まことに美男
   一の子分が 三木の文蔵 それに続いて 大亀源治
   ふきな与作に ひょろ松なんぞ 鬼の喜作に よめごの権太
   いずれ劣らぬ 兵(つわもの)ばかり 子分子分を 持ったといえど
   人に情の 慈悲善根の 感じ入ったる 若親方に
   今日は日の出に 魔がさしたるか 二十五才の厄年(やくどし)なれば
   すべて万事に 大事をとれど ちょうどその頃 無宿の頭(かしら)
   音に聞こえし 島村伊三郎 これと争う はじまりは
   かすり場につき 三度も四度も 恥をかいたが 遺恨(いこん)の元よ
   そこで忠治は 我慢をしたが 一の子分の 文蔵がきかぬ
   もっとこの先 読みたいけれど 上手でながいのは まだよいけれど
   下手でながいのは この座の邪魔と 止めろ止めろと 声なきうちに
   ここら辺りで 打ち切りまして 後の先生に おまかせしましょう