○ 口説き前文句(くどきまえもんく)

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 ・ ヤンサラジャイの 御先生さんよ お煙草あがれ 煙草の間合を
   一寸借りましょうか わしが借りたとて 先生のようにゃ できやせぬ
   そこのところは お許しなされ 許しなるなら 文句と出ましょう
   出ます文句を 何じゃと聞けば どうせまとめた 文句は知らぬ
   けれど昔は こんなに口説いた わしが初めて 踊りに出たら
   村の若衆が 晒(さらし)をくれた 何に染めよかと 紺屋に聞けば
   染めは染めでも 数ある中で 一にゃ橘 二にゃかきつばた
   三にゃ下り藤 四にゃ獅子牡丹 五つ上野の 千本桜
   六つ紫 色よく染めて 七つ南天 八つ山桜
   九つ小梅を ちらしに入れて 十で殿様 葵の御紋(あおいのごもん)
   こんなに染めて 娘さんが着たら 立てば芍薬 座れば牡丹
   歩く姿は そりゃ百合の花
   もっとこのあと 口説きたいけれど 文句知らんで 調子が合わぬ
   上手で長いのは まだよいけれど 下手で長いのは 踊りの邪魔と
   止めろ止めろの声なきうちに ここらあたりで 役切りまして
   後の先生に おゆずりします どうかこの上 囃しておくれ
 ・ ヤレヤ先生さま お煙草あがれ 煙草間合いさを 一寸借りましょうか
   借ると言うても 今のようにゃやれぬ 今の先生さんは 西京か江戸か
   声もよく出る その理も分る わたしゃ田舎の 草刈りのんこ
   声も出ません その理も知らぬ そこのところは お許しなされ
   ヤレヤ嬉しや 拍子が揃うた 拍子揃うたら 文句と出ましょう
   出ます文句は 何よでござる (口説きにつづく)