元旦の早朝(拂暁(ふつぎょう))に主人(年男(としおとこ))が最初に自家の井戸水を汲みとる。(現在はポンプで汲みあげるので、しばし汲み捨てて、新しい水と思われるものを容器に汲みとる)その水を元旦の雑煮(ぞうに)等に使用するお湯を沸し、「お福茶」をたて一同が飲む。また家によると直接飲んだり、書初めに用いたりする。
水道給水になってから、次第に失われてきたが、今も農山村で井戸のある家庭では行われている。
「若水」の意は若返る、よみがえる、すでるの意から出たものである。もろもろの誕生様式を古くは生まれる・すでるとに分けていて、母胎により誕生(哺(ほ)乳類―胎生し幼児は母乳で育つ)するものを「生まれる」母胎によらないで誕生(鳥類・魚類―卵から出生)するものを「すでる」といっているようである。即ち「すでる」ものは、外来魂を受けて出現する能力あるものの意である。「すでる」ことのできない人間がどうして「すでる」ことを願うたか、それは、外からの超能力によって、いついつまでも若やいで健康で元気に働きたい、これにまさる「幸福」はないからである。
井戸の水は常世(とこよ)の水で、人が飲むとともに、田畑もそれによって新しい力を持つのである。なお「若水」はもともと古代の変若水(わかがえりみず)(おちみず・月読命(つきよみのみこと)のもっていたという、若がえりの水)の信仰に由来する風習で、陰陽道の作法と結びついて伝承され、この水は邪気を除く効果があるとして、宮中では「立春」の日に主水司(もひとりのつかさ)から天皇に奉ったという。後に元旦の汲み水を、若水というようになったといわれる。
(資料) 若水 元日
○去年御生気(ごしょうげ)ノ方ノ井ニ蓋ヲシテ人ニ汲セズ。元朝、主水司是ヲ汲ミテ奉ル、朝餉(あさげ)ニ是ヲキコシメス
○新玉ノ春立日、奉ル故ニ若水トハ申、此水ヲ呑メバ年中ノ邪気(じゃき)ヲ除クト云、本文アリ
○平日ニテモ毎朝早ク一番ノ水ヲ汲用ヒマイラレバ其日ノ邪気ヲ拂フト申事
(註) 宮中行事
立春の日に若水を飲み、一年中の邪気を払う、前年から「主水司」が特定の井戸を封じておき、立春の日、この井戸の水を汲み、台盤所(だいばんどころ)の女房より天皇に奉る。
正月の元日に汲む水を若水という場合もあり、この習慣が後世まで伝えられた。
旧暦では元日と立春の日が同じ日に重なることもある。