11 七草・七日正月(ななくさ・なぬかしょうがつ)

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 正月七日は五節供(せっく)のはじまりの日、そこでこの日を「七日正月」といっている。
 節句は元来、節供と書き、季節ごとの特定の日に神に供える食物のことであったが、供え物よりも、日そのものをさすようになり、江戸時代から節句の字を用いた。節日はすなわち人日(じんじつ)(一月七日)上巳(じょうし)(三月三日)端午(たんご)(五月五日)七夕(たなばた)(七月七日)重陽(ちょうよう)(九月九日)などの式日をいう。
 若菜の節(わかなのせち)、ななくさのせち、ななくさの祝いといって、正月七日七草で炊いた雑炊(ぞうすい)を食べると、一年中の邪気を払い、健康に過ごせるという信仰から起こった慣習が、今も当地方の僅(わず)かな家に残っている。
 正月の料理は、現在の食事ほど脂肪質、蛋白質に富んでいなかった。しかし正月祝いより、雑煮・酒・魚が平常より過ぎ、消化器に大きな負担をかけている。七種の菜草を入れて粗食をすることにより消化器を休め、回復し健康に過ごそうとするものであろう。
 我々は美味なものを求め、口にしすぎるきらいがある。それを信仰により調整した先人の考えに感心させられる。
 (資料) 供若菜 七草ノ事 上子日、今八七日
 ○内蔵寮(うちくらのりょう)、内膳司(ないぜんし)ヨリ正月上ノ子日 奉之。 寛平年中ヨリ始ル
   七菜ノ歌ニ
  せり(水セリ)なずな(東風菜ト云)ごぎょう(ハハコ草ト云)はこべら(ハコベ草ト云)みみなくさ(詩経ニ巻耳(けんじ)、京ニ子コノ耳ト云)すずな(カブナノコト)
  すずしろ(大根ノコト)コレヤナナクサ。
 ○都ニ七野アリ 平野ヨリ 芹(せり) 北野ヨリ ナズナ 蓮台野ヨリ ゴキョウ
  朱雀野ヨリ ハハコ草 柴野ヨリ スズナ 御廟野ヨリ スズシロ
  賀茂野ヨリ ハコベ草  昔ハ此七野ヨリ七菜(くさ)ヲ奉ル
 ○今ハ正月七日ナリ 七種ノ若菜ヲ食スレハ其人万病ナク邪気ヲ除クヨシ
 ○七日正月トテ本朝ハ今日ガ五節供ノ初マリノ日ナリ上朝廷ヨリ下万民ニ至ルマデ祝ス
 本朝食鑑(ほんちょうしょくかん)・本草綱目啓蒙(ほんそうこうもくけいもう)・その他薬草の本によると次の薬効を記している。「せり」―神経痛やリュウマチ・幼児の解熱(げねつ)・「なずな」―利尿・解熱(げねつ)・「ごぎょう」―咳(せき)を鎮め、気管支カタル・喘息(ぜんそく)など呼吸器疾患、「はこべら」―産後の浄血薬・催乳薬・「すずしろ」―消化・腹痛・健胃・咳止・神経痛、「すずな」―しもやけ・そばかす・眼病・「ハハコ草」―痰・せきどめに効がある。
 (注)人日(一月七日)=中国では元日から七日までを、鶏・狗(いぬ)・羊・豬(ぶた)・牛・馬・人に擬する思想があり、それぞれをその日に犠牲にすれば、天が感じて禍を寄せ、悪鬼を避けるという伝えもあった。七日間これらの生類を食うことを許されなかったので、ここに新薬七種を集めて羹(あつもの)とするふうが成立したという(七草のいわれ)。