60 七・五・三(しちごさん)

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 「七・五・三の祝い」といい、子どもの成長を祝う儀式である。
 全国的に行われているが、下松市内においてもなかなか派手で盛大である。男子は三才と五才、女子は三歳と七歳に当たる年の十一月十五日行う。女の子には「帯」男の子には、「袴(はかま)」(今ではいろいろな新しい洋服)で、氏神様に参詣し、子供たちに、こんなに大きくなったと自覚させる意味もある。この日、氏神に参詣し、注連縄(しめなわ)を張り、七・五・三の数に基いて献酬(けんしゅう)をし、本膳七菜・二の膳五菜・三の膳三菜を供えて盛宴を張るのがしきたりである。即ち七・五・三のふるまいをするのである。
 農村では、このような子供の成長に伴う儀式として七・五・三という一括的な祝いかたが便法として生まれたものとも考えられる。また、七・五・三とは、祝儀に用いる数一・三・五・七・九の奇数をめでたしとして、その中の三つをとったともいわれる。江戸時代中期以降に流行したが、当時、子どもの年齢や参詣の日は、必ずしも一定していなかったようである。
 この行事のはじめは、徳川幕府五代将軍綱吉(一六四六―一七〇九)の子、徳松の三才の髪置(かみおき)の儀式がこの日に行われたのにちなむともいわれる。また、この日が鬼宿日(きしゅくにち)にあたるからだとの説もある。古くから一般的に、三歳の祝いは、着物の付け紐(ひも)をとって帯をしめ始める女の子の祝い、五歳はおもに男の子の祝いで、袴着(はかまぎ)ともいい、はじめて袴をつける祝い、七歳は男女児とも、幼児期の終わりとして重んじられてきた年齢で、紐直しの祝い(ひもなおしのいわい)といって帯のしめはじめを祝うとされ、紐落し(ひもおとし)・帯結び・髪置・髪立て(かみたて)・袴着・被衣初め(かつぎぞめ)など、子供の成長と健康を祈る儀式の流れを汲(く)むものであろう。また、鬼宿日は、万事が大吉であるとすることからきたのであろう。
 このように、古くから幼児期の、子供の成長に区切りをつけながら、祝う行事があったのである。昔から「七つ前は神の子」といって、古い日本の社会では、七歳に達してはじめて、小児の生存権が社会一般から承認されたのである。昔は、医療の未発達や、育児知識のおくれのうえに、疫病の流行などで、乳幼児の死亡率が高く、七歳までは生命力の不安定なものとして、一人前の人間の数に入れず、子供が死んでも届出の必要もなく、あらためて葬式もしない家が多かった。それが、七歳の祝いで、大人なみに付け紐のない着物を着せて神社へ参り、はじめて一人前の氏子として、子どもの名を宮座帳(みやざちょう)へ記入してもらったり、人別帳(じんべつちょう)にも登録したりした。「子供組」という地域の組織への参加も、七歳が各地での共通の年齢であったらしく、また明治以後、七歳は、初等教育の学校入学の年齢ともなった。最近、三歳・五歳・七歳と男女の別なく、親子で宮参りするようになった。また、商業政策にあおられて、華美を競う傾向が目立ち、派手はでしく盛大化してきた。七・五・三の晴着にも、時代色が反映し、男の子は、明治の紋付袴・軍国時代の陸海軍服から、戦後の背広・野球服などになった。また、女の子も振袖のほか洋服もふえてきた。
 いずれにしても、この日にお宮参りすることによって、敬神崇祖(けいしんすうそ)し、子どものすくすく成長してきたことへの感謝の気持ちを、表わすことがこの祭事の眼目であろう。
 「七・五・三」で売られる千歳飴(ちとせあめ)は、元禄・宝永年間(一六八八―一七一〇)に、江戸浅草の飴屋が考案し、神田明神の社頭など、神社や寺の門前で売ったものといわれ、長生きするようにとの縁起をかついだもので、これが七・五・三専用のものとして広まったものといわれている。
 ともあれ、七・五・三の祝いは、子供の成長を祝う親の喜びを、子供の心に伝えることを大切にしたいものである。質素でよいからさっぱりした晴着で、親子揃っての氏神様参り、記念写真、心をこめた食事………。そして周囲の人々へのお礼の心を、千歳飴(ちとせあめ)に託して配るなど、心のこもった行事でありたいものだ。
  「子どもより 親のよろこぶ七・五・三」にならないよう――。

 

 (注)
  注連縄(しめなわ)―標縄・七五三縄とも書く。神事の場にひいて清浄(せいじょう)な地を区画する。
  髪置(かみおき)―中古・男女三歳の時・鋏(はさ)んでいた頭髪をはじめてのばす儀式、昔は多く陰暦十一月十五日行った。
  鬼宿日(きしゅくにち)―鬼宿とは、二十八宿の一つ、鬼宿にあたる日を鬼宿日といい、嫁どりの外は万事に大吉という日。
  袴着(はかまぎ)―昔、幼年の男児が、初めて袴を着けた時の儀式。古くは三歳、後世は五歳または七歳に行う。
  紐(ひも)落し―紐解ともいう。女児七歳の時、衣服の付紐を解き去る祝、帯初。