[手水鉢(てみずばち)について]

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 お宮へお参りすると、「浄心」、「洗心」などと銘を刻んだ石の手水鉢があり、その中に清水が流れ込むか、湧(わ)くようにできていて手水を使えるようにしてある。
 手水を使い、清い水で手を洗い口をすすぐが、これは神前に進むにさきだって、心身を洗い清めるためで、「禊(みそぎ)」や「お祓(はら)い」と同じ精神である。神社では「祓い」を最も重要視するので、ここではまず身を清め、形を整え、心身共に罪やけがれなどを流し去り清い上にも清めて、神前に進むことを神参りの大切な心得とし、これは日本人の古くからの考え方である。
 この手水鉢は、水をたくわえる用具で、「水船(みずぶね)」とも呼んでいる。むかし神社やお寺には手洗用や蓄水用、風呂用などがあったが、手洗用のものは、鎌倉時代(一一九二年~一三三三年の約一五〇年間)以来からの遣品がある。桃山時代(一六世紀後半の約一五年間)からの茶庭では、つくばいの手水鉢があらわれ、その延長として住宅の縁側近くに設ける「縁先手水鉢(ちょうずばち)」も生まれた。これら庭関係の手水鉢は、実用と鑑賞を兼ね、「自然石水鉢」や、「加工品水鉢」のほかに、古い石塔の部分を流用した「見立物(みたてもの)」の水鉢も作られた。
 長方形のものが普通であるが、たとえば層塔などの四方仏を彫刻した塔身を使用して、「四方仏水鉢」が作られたり、また、宝塔の塔身で「袈裟形水鉢(けさがたみずばち)」も造られたりした。
 本市にあるものは、すべて江戸時代後半のものばかりである。