所在地 下松市花岡
所有者 閼伽井坊
閼伽井坊は、もと花岡八幡宮の社坊九か寺の一つで、現在真言宗御室派の寺院である。この多宝塔の造建年代については、藤原鎌足の建立と伝えられるが、建築様式から室町時代中期から後期にかけての造建ではないかと推定される。
また、昭和三年解体修理の際「永禄三庚申年」(一五六〇)と墨書のある木片が発見され、あるいは建立年代を示す資料とも考えられる。
方三間、二重塔婆、屋根は「こけら葺(ぶき)」で、総高一三・五メートル、周囲に(注)「廻椽(まわりぶち)」をつけ、(注)「斗栱間(ときょうま)」には装飾(注)「蟇股(かえるまた)」を用いており、内部四天柱には(注)「天井長押(てんじょうなげし)」をめぐらし「鏡天井(かがみてんじょう)」で、「須弥壇(しゅみだん)」には「金剛界大日如来(こんごうかいだいにちにょらい)」が安置されている。
手法は繊麗で、建物の外部も形態がよく整っており、当代の多宝塔として他に比して遜(そん)色のないものである。
(注) 「廻椽」 =天井のまわりと、壁との接するところに取り付ける椽木(ふちぎ)
(注) 「斗栱間」 =建築物の柱上にあって、軒を支える部分で、「斗(ます)」と「肘木(ひじき)」とからできている。
(注) 「蟇股」 =上方の荷重を支えるための部材で、下方が開いて蛙(かえる)の股(また)のような形をしているからこの名がつけられた。
(注) 「天井長押」=天井回椽(まわりぶち)の真下にとりつけたなげし。