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(四) 拝殿左前方借景庭

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 拝殿に向って左前方参道横の平坦地に、山灯籠と五個の石を配した枯山水がある。底の後方は、急傾斜となり、やがて平野を経て背後の雄大な山景を取込むことが可能である。
 現在では、見切垣が消滅し、中景をなす部分には、雑木類が繁茂し、このため借景式庭園としての型式は、意識してはじめて分かる程であるが、かつてこの庭が造られた頃は、中景を通して充分な眺望が可能であったと思われる。

拝殿に向って左前方の借景式庭園(昭和四十三年八月撮影)

 配置は山灯籠と二石を右側に寄せてこれを主景とし、他の石は左方へ組み流している。この石組は充分な余白をとり、灯籠と五個の石を配した簡素なものであるが、瞑想にふけり凝視する静的な配石がなされている。
 作庭年代については、他の庭と様式を異にしており、わずか時代が降るとも考えられるが、このように平坦地に於ける借景式庭園の約束は、江戸時代に完成したものである。
 この庭に用いられた山灯籠は、火袋をのぞく笠・中台・竿が自然石で力強く、庭園の主景部に位置し、その大胆な装飾的性格は江戸時代後期の流行を意味するものであろう。
 わずか五個の石を配したこの庭が、その地形的条件とともに、借景式庭園を意図した上での作庭であることはまず誤りないであろう。
 この庭を観賞する場合、現在参道横(庭園前方)の一列に並ぶ灯籠のある部分が最適であるが、この部分は参道の高さに低くされて鑑賞には不適当である。作庭後灯籠が新しく建立され、又は参道の拡幅等により庭園の一部が割譲されたのではないであろうか。
 庭に使用された石が丸味をおび(註一)気勢を欠く憾みもあるが、眺望による美観を取込む技量は、当時としては、高度な造園技術である。
 (註一)川石であるが、八幡宮後方の古墳の石を使用したとする見解がある。