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(五) 浄念寺庭園

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 浄念寺庭も前庭同様『築山庭造伝』後編文政十一年(一八二八)「草之築山之図」や同著「相生安寧庭之全図」を参考にしたものであろう。木村翁は後述する如く、一般庭園構成とは逆に向って右に主景を構えることを得意としたようである。だが浄念寺庭の場合山裾の傾斜地を利用して滝を落し、豊かな水量を活用して細長い池泉に流れを強調する等、自然地形を利用したものである。光円寺庭とは逆に滝を向って左に構えたのは、池尻を右に向け排水を容易にするためであろう。

浄念寺庭 (山田孝太郎氏所蔵)


『築山庭造伝』後編 (文政十一年・一八二八) 相生安寧庭之全図

 池泉の向う側に盛土をなしその中央に正覚石を配置し、細長い池泉に架けた石橋と飛石を経て、この正覚石に至る意匠は光円寺庭と全く同一である。その他滝石組に力強い技法が見られること、共に小規模であること、池泉護岸への配石手法、植栽による修景等光円寺、浄念寺、分国寺三庭は、定型化のもとほとんど同一形式によるものである。
 現在浄念寺では「景色図」に見られるような豊かな水源を境内に求めることは、まず不可能である。だがかつては山裾を利用して、滝と流れの景趣を意匠するほどの導水が可能であったのであろう。
 「景色図」には庭とともに門及び寺の位置が記入されている。この図にしたがえば、庭は門を入って右側の山裾に造られている。