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(七) 大木萬蔵庭園

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 庭は小規模でめだつ立石もなく、簡素なものである。前者二庭のように所謂正覚石を置く等、仏教的内意もなく、起伏のない平坦な地面にめだたぬ程の土盛りを二ケ所なし、ほぼ一五石を常識的に布石したものである。敷地は小高く大自然の山野が眺望できる絶好の位置にある。しかし絵図に見るかぎりいささかも自然背景を利用することなく、庭園内での通則的配石をしたまでである。したがってその構成は平凡であり、創作的執念をうかがうことは出来ない。庭には築造以前の植栽とも思われる一本の老木(モッコク)の他五、六ケ所に低い植込があるが、風致上重要な意味をもたない。約十五の庭石の他、庭園右側寄りの老木のふもとには四つの飛石が在る。

切山村大木萬蔵庭 (山田孝太郎氏所蔵)

 大木家四代徳左衛門の代寛永十二年三月三日に植えたと伝える門松は今日繁茂し当家の往時を物語るものであるが、当初のものか否か、江戸末期のこの「景色図」には存在しない。庭は門松とは全く別の場所に築造されていたものであろうか。
 当時庭園経営者であった大木萬蔵は天保十五年甲辰十二月二十七日死去。今日の敷地内には庭石らしきものただ一つとして遺存しない。