「景色図」によると庭園は築地塀にそい、敷地内の平坦地に整然たる長方形を構成し庭の中央やや右寄りに枯滝を組んで主景となし、これより漸次左右に組流したものである。庭園面積も前三庭に比較してかなり大きく、絵図に示された二十三庭の中では、最も大きい部類に入れてよい。滝部に立石を使いこれより次第に臥石をもって組流す等通則的配石をなしている。要所に布石された石組の間には、随処に下草を配し、特に九本の蘇鉄の植栽と二基の山灯籠は、当時の流行を思わせるものがある。蘇鉄の他に数種の樹木が植栽されているが、その種類は判然としない。前述の浄念寺、光円寺両庭の如く思想的、信仰的背景と関係なく、当時流行した「秘伝書」に心理的暗示を得ての伝統的手法であったと考えられる。又周囲の山野景観を利用するに好都合な立地環境にありながら、「景色図」によるかぎり山を背景とした形跡はない。
末武原田庄左衛門庭 その一 (山田孝太郎氏所蔵)
その二