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(一二) 当時の庭園の様式

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 以上下松市域内に於ける五庭園について述べたが、「景色図」には、前述の如く二十三庭が掲載されているので、次にその全般について造園学からの検討を行ってみたい。「景色図」は江戸末期この地方に於ける庭園の特徴を明らかにする客観的資料である。その特徴、築造技術等を考える場合、庭園構成を細部分類することは必ずしも適切な方法ではないが本論に於いては、便宜上様式、材料、技法等数項目に分けてその特徴を挙げておきたいと思う。
 まず様式について、「景色図」の二十三庭を画然と分類することは困難であるが、池泉庭十一、枯山水十二で池泉庭が約半数を占める。枯山水様式中純粋な平庭様式は少なく、若干の土盛りをなすか、又は枯池のように水面の部分を低くして、一部に小石を敷いたものである。二十三庭中茶庭(露地)が一庭も存在しないのは、この頃この地方への茶道の伝播を否定するものであろうか。又円通寺の如き平庭に於ける借景式、龍安寺の如き抽象庭も存在しない。以上の如く「景色図」に見える二、三の平庭的枯山水は、伝統的布石をなすのみで、例えば一直線上に七、五、三、の群団石組をする等、又遠近法の採用もない。