人間は物を見るにも字を書くにも向って左から右へ動かす方を得意とする。これは生れ乍らの人間の一般習性によるもので、庭も主景は向って左に構成する方が観賞に都合がよく(註一)、既に古く室町の頃より一般原則として守られていることである。だが二十三庭中主景(滝石組等)を向って左に構えるもの五庭、右に構えるもの一八庭と圧倒的に逆勝手が多い。これは木村翁が造庭に際し、人間の一般習性を上まわる地形的条件が偶然重なったためではなく、むしろ右側を上位に考える日本人特有の習性に影響されたものであろう。このことは作者の庭園構成上の未熟を意味するものであろう。
(註一)日本の庭園 森蘊著 吉川弘文館 一一二頁