庭園内には、モミの巨樹の他に三本のモミジとツバキ・サカキ等が存在する。
天をつくモミの巨樹は、目通り周囲三七〇cmを有し、現在も樹勢旺盛である。西南隅の山裾を削った部分に植えられている。当初からのものか否かは判然としないがその位置から推して庭園用樹として植栽されたことは疑う余地がない。(註一)
ヤマモミジは、植栽したものか長年の間に実生が生長したものか推測の域を出ない。生長にまかせてはいるが、秋も深まると三本の紅葉樹は、赤く石組をおおい、樹下の池は静寂の世界を演出してくれる。屋敷跡に実生したものとすれば、自然界の妙を語りかけるようでもある。
私は、本庭を江戸初期末に位置づける(県内最古の庄屋庭)のが妥当と見ており、モミを除く植物はいずれも後世のもので、庭園本来の芸術とは無縁である。又作庭当初いかなる植物が植えられたかも、全く不明である。
旧宅寄りに手水鉢があるが、附近の山から素材を求めたものであろう。当初からのものとは、考えにくい。
他に山燈籠等の点景物がないのは幸いである。
(註一)もしモミの位置が仮に一mほど東西いずれかに寄っておればそれは庭園用樹ではない。モミが当初から庭園用樹として植えられたと断定するのは、このような位置にあることが偶然とは考えられないからである。又山裾を適当に削った場所であることから山林に自生する樹木を利用したとも考えにくい。