丘陵の黒ボク土

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TM2は連光寺の丘陵上部谷壁斜面(Tamura一九八一)に位置する(図1―21)。多摩丘陵の谷頭部の上部谷壁斜面は、傾斜が一〇度前後の緩斜面になっていることが多い。上部谷壁斜面や頂部平坦面は完新世富士火山灰層が表面を覆っているか、あるいは侵食によってやや削剥されて完新世火山灰層が薄くなっている。標高は八二メートルである。現在は、キャベツなどの畑として利用されている。土壌断面はA1p/A3/Bからなり、赤色スコリア(鉄、マグネシウム含量の高い火山噴出物)を多量に含み、表層に腐植を含む黒ボク土壌(表層腐植質黒ボク土)であるが、表層はやや削剥されている(図1―23)。本土壌の重鉱物では、かんらん石三・三~一六パーセント、しそ輝石五・一~一二・六パーセント、普通輝石〇・五~二・一パーセント、磁鉄鉱九・六~二三パーセントが認められ、かんらん石およびしそ輝石(図1―25)を主体としていた。これは、富士火山灰の鉱物組成(上杉一九八三)の特徴をよく反映していた。軽鉱物では、長石類が二七~五九パーセントを占め、軽鉱物の主体となっていた。火山噴出物に特徴的な火山ガラスは一・八~六・三パーセントで、バブルウォール型(BW型)、軽石(パミス)型(P型)ともに数パーセントであった(表1―2)。火山ガラスは、形成時に発生する気泡に対してガラスの粘性が低い場合には曲率半径が大きくなって、BW型となり、粘性が高い場合には曲率半径が小さくなって、P型となる。風化粒子は、ほとんどすべてが赤色スコリアで一六~二二パーセントをしめた。A1pおよびA3層においてイネ科の植物珪酸体が認められた。イネ科植物珪酸体を形成するススキなどが多量の腐植を黒ボク土壌に供給したと推定されており、腐植含量と植物珪酸体含量とはよい相関を示す(加藤一九六〇)。土壌pH(H2O)は、五・八~六・〇、pH(KC)は五・〇~五・三で、両者の差は小さかった。畑作物栽培のための石灰施用などによる酸性矯正の結果によると考えられる。電気伝導度は五四~六〇μ S-1と一般的な黒ボク土壌の値よりは小さい値を示した。全炭素含量は一九~三四gkg-1、全窒素分量は一・六~二・七gkg-1であり、表層の腐植含量が六パーセントを超えていることから、表層腐植質黒ボク土に分類される。有効態リン酸は〇・一三~九・六mgPkg-1でリン酸質肥料の施用によって、やや高い値を示している。リン酸吸収係数は一四四〇~一六五〇mgP2O5(100g)-1と低く、一五〇〇mgP2O5(100g)-1以上である黒ボク土の性質を示したが、土層改良などによって性質の異なる土壌が混入していると推定される。陽イオン交換容量は二九~三九cmol(+)kg-1で、交換性カルシウムが一三・九~一七・八、交換性マグネシウムが一・九八~四・四一、交換性カリウムが〇・一二~二・二、交換性ナトリウムが〇・一二~〇・四九cmol(+)kg-1であった。したがって、塩基飽和度は五五~六五パーセントで、塩基飽和度の高い土壌となっている。

図1―25 連光寺(TM2)A3層の一次鉱物(しそ輝石)

 連光寺本村地区の頂部緩斜面にTM3を設定した(図1―21)。標高は八五メートルである。土壌断面はAp/B1/B2からなる(図1―23)。腐植の集積は三五センチメートルまで認められるが、A層中には富士黒土層(FB)は確認できなかった。現在は、キャベツ、長ネギが栽培されている。本土壌の重鉱物は、かんらん石、しそ輝石、磁鉄鉱を主体としており、それぞれ一七~四九パーセント、三・六~五・八パーセント、三・一~八・一パーセントで、かんらん石型の富士火山噴出物とみなすことができた。軽鉱物では、長石類が六・三~二一を占め、石英は〇~一パーセントにすぎない。火山ガラスは八・五~九・一パーセントで、バブルウォール型よりも軽石型(図1―26)の方が多かった。風化粒子はスコリアで二九~三六パーセントであった。土壌pH(H2O)は四・〇五~五・七三、pH(KCl)は三・九九~五・四〇で、TM2と比較して、かなり低い値であった。電気伝導度は高く、一八〇~一九九μ Scm-1であった。全炭素含量および全窒素含量は一八~三八gkg-1、一・六~三・四gkg-1で、野外で観察した土色に比べて、有機物含量は高くはなかった。有効態リン酸は、〇・六二~一一mgPkg-1で、黒ボク土壌としては、含量が高い。リン酸吸収係数は、二二九〇~二八七〇mgP2O5(100g)-1で、黒ボク土壌の基準値の一五〇〇mgP2O5(100g)-1をはるかに超えている。有効態リン酸が高いこととリン酸吸収係数が高いこととは矛盾しない。これは、長年の施肥の影響を示すものと考えられる。陽イオン交換容量は、四三~五七cmol(+)kg-1で交換性カルシウムが一・二~九・九、交換性マグネシウムが〇・一二~一・五、交換性Kカリウムが〇・八三~二・一、交換性ナトリウムが〇・〇五四~〇・〇七九cmol(+)kg-1であった。したがって、塩基飽和度は五~二二パーセントであった。永年に渡る畑作物の栽培によっても、本土壌が保持している本来の性質を変化させてはいないことが明らかになった。

図1―26 連光寺本村(TM3)B1層の一次鉱物
(かんらん石、火山ガラス、軽石型(P型))