水田の機能と役割

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昭和四十年(一九六五)産以降の多摩市(昭和四十六年(一九七一)産以前は多摩町)の水稲作付面積、ヘクタール当たり収量および生産量を示した(表1―4)。昭和四十四年(一九六九)までは、多摩市の年間水稲生産量は四〇〇トンを超えており、市外へ水稲を供給していた。しかし、昭和四十年以来、多摩市における水稲作付面積は減少の一途をたどった。とくに、昭和四十六年から昭和四十八年の二年間で作付面積は五七ヘクタールも減少した。多摩ニュータウン事業が本格的に動きだすとともに聖蹟桜ケ丘駅を中心とした駅前の開発、河川改修工事、区画整理事業の進行が作付面積の減少に関与したことは間違いない。多摩ニュータウン事業区域内の谷津田が減少するに伴って、グライ土壌、黒ボクグライ土壌、多湿黒ボク土壌などへの作付けが少なくなり、ヘクタール当たりの水稲収量は、年による変動は見られるもののしだいに増加している。平成二年の水稲作付面積はわずか四ヘクタールにとどまり、収穫量も一五トンとなってしまっている。水田は、生産基盤である。しかし、生産基盤にとどまらず、独特の地域空間を形成し、地下水維持機能や環境保全機能という大きな役割も果たしている。
表1―4 多摩市における水稲作付け面積および生産量
(農林水産省1965;1990)
作付け面積
ha
ha当たり収量
t
生産量
t
1965年産 多摩町 145 3.03 439
1967 多摩町 126 3.43 432
1969 多摩町 105 3.17 333
1971 多摩町 75 3.20 240
1973 多摩市 18 3.56 64
1975 多摩市 16 3.31 53
1977 多摩市 19 3.80 72
1979 多摩市 16 3.65 58
1982 多摩市 17
1990 多摩市 4 3.83 15

 
参考文献
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 謝辞 顕微鏡による一次鉱物観察については、日本学園高校 宇津川徹氏にお世話になった。記して感謝の意を表する。