このうち乞田川は、稲荷橋の上流約二〇〇メートルのところを上流端とし、行幸橋の下流で大栗川に合流する全長四・四キロメートルの河川である。上流端では向かって右手から中沢池の水が、左手から七号水路の水が僅かではあるが流入する。幹線の七号水路の最上流部は暗渠の承水溝となり平時は渇水状態である。稲荷橋上手あたりの地点から下流にかけて、乞田川は湧き水に養われながら流量と河川断面を増していくことになる。それにしても過去八か年間(昭和六十年度(一九八五)~平成四年(一九九二)『多摩市の環境保全・平成五年度版』、以下すべての資料はこれによる)における流量の年平均値は、最大年度(平成元年度(一九八九))でも行幸橋地点の毎秒〇・二一立方メートルと少なく、河川断面の大きさ並びに河川勾配などからみて、洪水の懸念は皆無に近い河川といえる(図1―53)。
図1―53 永山橋より上流方向の乞田川を望む
三面舗装と段差の大きい人工河川である
なお、後述するように乞田川は最下流部の生活雑排水の流入地域を除けばかなりきれいな水である。多摩市のデータによれば年々きれいになっている。ただし環境基準の類型指定はないが、大栗川の支川であるということからC類型が準用されている。当然、乞田川は環境基準を多くの項目で満たしている河川である。それにもかかわらず、降雨の際に短時間で急増水する都市河川ゆえに、コンクリートブロックで固められた急斜面と川底、並びに両岸に張られた防護網とは、市民と乞田川とを分断したままである。
一方、大栗川は八王子市鑓水(旧国道一六号の西側)地区に源を発し、途中都市の生活雑排水や湧き水を加え、川幅をひろげながら多摩市に至る。多摩市の大栗川は市域の北部をほぼ北東進後、東へ向かって流れ、多摩川合流地点の少し上流で乞田川を併せて多摩川に合流する。全長一五・五キロメートルの一級河川である。かつての蛇行河川を河川改修によって直線化したため、市内上流部の和田地区から八王子市境にかけて河川勾配が増し、下刻防止用の小堰堤と断続的ながらコンクリートブロックによる三面舗装が整えられている。市内の中下流部では瀬と淵が交互に展開し、そこかしこに釣人の姿が点在する。現在、両河川とも河川改修が進み、大雨による増水はするが氾濫はなくなった。過去八か年間の水質(BOD)の推移を概観すると、上流部で横ばい、下流部で減少傾向が顕著にみられる。生活環境項目に係わる環境基準の類型はC類型である。水域環境の快適性評価では総合的にみて大栗川の方が高かった。なお、ニュータウンというモデル都市づくり計画の推進にもかかわらず、住民と河川との関係には「親水」視点が十分確立していない。依然、河川は空間を分断し時に洪水をもたらす危険で厄介なもの、という見方が支配的のようである。