市域の不圧地下水

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多摩市域では、古くから井戸水や湧水が利用されてきたにもかかわらず、不圧地下水に関する資料は極めて不足している。さらに市域南部は、昭和四十年代から多摩ニュータウンの建設に伴い大規模な地形改変が行われ、丘陵頂部などの高まりは削られ、谷戸などの低いところは埋め立てや盛土されて、丘陵地域の多くが平坦化されていった。したがって、本来あるべき自然状態の地下水の様相を知ることは極めて困難となった。そこで、ここでは多摩ニュータウン開発地域以外の多摩市北部地域を中心に、井戸の測水調査結果から丘陵・段丘・低地における地下水の在り方をみることにする。
 まず多摩市域における不圧地下水の存在状態を概観すると、大略地形の影響を受けていることが理解できる。すなわち、不圧地下水面の高さは地表の高度形態に支配されてほぼ地形と類似した傾向をもつ。不圧地下水の流動方向も現地形の高いところから低いところへ向かって緩傾斜で流れている。地下水位は丘陵の頂部やその斜面で概して浅い傾向がみられる。たとえば、平成七年度(一九九五)八月の測水調査によると、連光寺南部の白山神社付近の頂部で最も地下水位の浅い井戸は地表から〇・五メートルで、丘陵斜面においても同様の水位を示す井戸がある。これらは丘陵部の連光寺地区に集落の発達をみたことと関連があると推測できる。上位段丘の地下水位は一般に丘陵地のそれより深く、地表から四~五メートルの水位を示す場合が多い。そして下位段丘から谷戸などの低地に向かうにつれ順次地下水位は浅くなる傾向にある。市域での地下水位の状況は昭和六十二年(一九八七)の調査(一一〇井)によると、冬期では地表から二~六メートルの井戸が全体の七〇パーセント以上を占め、夏期のそれでは地表から二~六メートルの井戸が七九・二パーセントである。また、丘陵と段丘、さらに丘陵・段丘を刻む開析谷などの地形の異なる境界、たとえば谷頭や谷壁斜面の一部に湧水が認められることから、地下水面にはそれぞれの地形単位で不連続の関係にあることが把握できる(図1―56)。

図1―56 地形と不圧地下水面のあり方
(上図:連光寺地区,下図:東寺方地区の例)

 一方、大栗川や乞田川などの諸河川は河道の掘り下げや直線化、さらに小河川の暗渠化などの河川改修工事が施されている。そのため河川沿岸低地の浅い地下水は、地下水位の低下や枯渇化が生じたり、河川と地下水との交流関係が失われたり、さらに湿地であったところが乾燥化したりしている。
 次に不圧地下水の水温と若干の水質をみると次の通りである。地下水の水温(井戸での水温―井水温)は大略冬期で一〇~一五度C、夏期で一四~一九度Cの値を示し、地形的なちがいはみられない。井水温と地下水位との関係は、地下水位五メートル未満の井戸で七~二五度Cの値を示し、水温にばらつきが目立つ。地下水位五メートル以深のそれでは一二~一八度Cの値を示している。地下水位がほぼ五メートル以深での井水温状態は、一部を除いて恒温層的な存在を示す値がみられ、その水温は一四~一五度C程度である。不圧地下水の水素イオン濃度(pH)の値は大略六・〇~七・四の範囲にあるが、地形的には丘陵・低地よりも段丘の地下水の方がやや酸性に傾く傾向を示している。水素イオン濃度値が酸性傾向を示す素因としては、表層が関東ローム層(火山灰層)により構成されていることに関係があり、一般に関東平野の丘陵や台地(段丘)地域にみられる状態と類似する。電気伝導度(EC)の値は七〇~六〇〇μS/cm(マイクロジーメンスパーセンチメートル)、塩素イオン濃度(Cl)の値は一リットル当り一〇~七〇ミリグラムの範囲にある。これらの値のばらつきは地形的な違いよりも、一般には家庭雑排水などが地下水に混入した結果と推測する方が妥当である。また、電気伝導度および塩素イオン濃度の値は夏期の場合の方が比較的高い値を示す傾向が認められる。