地形改変と水循環

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多摩市域では一九六〇年代以降、多摩ニュータウンの開発などにより都市化現象の進展が著しく、その結果として水文環境においても、その影響が顕著に示されている。まず自然状態にあった丘陵地域などで開発行為が行われると、樹林を伐採したり、丘陵斜面や農地を切土・盛土して地表形態を大規模に改変し、平坦化する。次に改変した土地に人工的な住宅や道路などの諸施設がつくられ、本来土地のもつ自然的機能は著しく減退される。こうした土地利用の変化と相俟って降水~流出システムを中心に、その地域の水文循環に対して変化を生じさせる。そして地下水の存在状態にも大きく影響してくる。
 もともと自然地域の水循環は、一般に降水のごく一部が表面流出し、残りの多くが蒸発散、樹冠および地中への浸透水となり、後者は土壌水や地下水の増加に寄与する。地中への水は、その一部が毛管作用により土壌中を上昇し蒸発散として失われ、一部は地中に地下水として貯留される。地下水は地中を流動するが、その一部は湧水などのかたちで地表に浸出し、河川を涵養する水となる(図1―57)。

図1―57 自然域と都市域の水収支の比較
多摩ニュータウンの試験地で求めた降雨期間中の水収支
(安藤義久,1982年を基に作成)

 しかし、開発行為に伴う丘陵地の土地起伏の平坦化や表土層の切り取り、そして家屋・ビル・道路などの土地被覆部分の増加は、本来の土地の水分保留機能を低下させ、河川への直接流出成分の増加やピーク流量の増大をもたらすことになる。また、降水による地下水の浸透量が減少するため、貯留効果は小さくなり、河川の基底流量は著しく減少する。さらに、流出経路は側溝、排水路、下水路の影響を受けることになり、平常時の河川水量は事業所や家庭などの雑排水により規定される。このように都市化現象は水文環境に変化を与えるとともに、水の循環を通して地表面からの蒸発を阻止し、水収支・熱収支に変化を与え、地域全体の土地システムに大きく関与する。現在の多摩市域では、宅地開発などの発展段階に応じて斜面林や緑地の減少、地下水の水位低下、湧水量の減少・枯渇、自然河川の一部が消失して排水路化するなどの状況にあるといえる(図1―58)。

図1―58 多摩市域における土地・水文環境の変化

 したがって、大規模な地形改変による建築物・道路などの土地被覆が降水の流出率を高めるとともに、地中の水分保留機能の低下を引き起こす要因となっている。
 
参考文献
多摩市『多摩市の環境保全』―平成5年度版―