屋敷林などに利用

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多摩市において常緑広葉樹林として識別される群落としては、シラカシの優占する林分(ヤブツバキ群綱シラカシ群集)、シラカシやケヤキなどの優占する屋敷林(シラカシ・ケヤキ屋敷林)があるが、いずれも現在ではごく限られた面積しか認められず、しかも何らかの形で人為的な干渉を受けており、純粋な自然林とは言いがたいが、自然植生型へと遷移していく過程にある群落として位置づけられる(図2―1)。

図2―1 シラカシ・ケヤキ屋敷林

 シラカシ群集はシラカシ、シュロ、チャノキ、ナンテンを標徴種、および識別種として報告された常緑広葉樹林のタイプで、主に台地から丘陵にかけて成立する自然植生で、群集はさらにモミ、アオハダ、ウリカエデ、オトコヨウゾメ、ヤマツツジ、ヤマウルシなどの種を含むことで識別されるモミ亜群集と、エノキ、ムクノキ、ドクダミ、オクマワラビ、ヤブソテツなどを含むことで識別されるケヤキ亜群集、さらにこうした種群を含まない典型亜群集の3亜群集が報告されている。
 多摩市においては、モミ亜群集やケヤキ亜群集に比定される林分はほとんど認められず、典型亜群集に比定される林分が丘陵脚部の急斜面や川岸段丘崖などにごく小規模認められる。なかにはシラカシまたはスダジイが数本といった形で残存しているところがある。また、台地や沖積低地にある旧家の庭には、しばしば防風その他の目的から屋敷林(シラカシ・ケヤキ屋敷林)が維持されているが、成立年代の古い発達した林は自然植生と大差ない内容となっている。シラカシ・ケヤキ屋敷林はシラカシ群集の標徴種、識別種を多く含み、さらにケヤキ、エノキ、ムクノキ、ドクダミ、オクマワラビ、ヤブソテツなどを含むことからケヤキ亜群集に類似する内容をもっており、自然植生とあまり変わらないが、人為的な影響を強く受けていることもあって、林縁の植物や園芸品種が混入する場合が多く、剪定(せんてい)や林床整理が行われていることが多い。その典型といえるのが「かしぐね」(図2―2)と呼ばれている防風、火災よけ、蚕室保護といった目的からよく刈り込んで整形したシラカシの列植であるが、現在ではごくわずかしか残っていない。

図2―2 「かしぐね」