このような条件下に成立している群落としては、主に丘陵の稜線上に成立するアカマツ・コナラ群落、丘陵の中部から上部にかけて成立するコナラ・クリ群集、比較的ローム層の厚い斜面下部から中部にかけて成立するクヌギ・コナラ群集などが識別されている。
アカマツ・コナラ群落は、尾根筋の乾性で貧栄養な立地にアカマツが先駆的に侵入し、成立した林分であるが、ところによってこのような立地条件への植林による林分もある。この群落はアカマツが高木層に優占するものの、群落の種組成はコナラ・クリ群集に近似している。一方、多摩市におけるアカマツ植林による群落は、多摩ニュータウン内の緑化法面に多く見られるが、奥多摩地域などに多く見られる用材を得る目的の植林とは異質のもので、これは植栽樹群として位置づけるべき性質のものである(図2―3)。
図2―3 アカマツ林
多摩市においては、ニュータウン造成によって丘陵地形がいちじるしく改変されたために、稜線上の、雑木林の皆伐後に成林したと推定されるアカマツ・コナラ群落は諏訪団地周縁部その他にごくわずかしか残存していない。
コナラ・クリ群集は、関東南部の低山帯に広く分布する落葉広葉樹林で、コナラやエゴノキ、クリなどが優占し、ヤマザクラ、リョウブ、アカシデ、クロモジ、コバノガマズミ、オトコヨウゾメ、ヤマツツジなどもよく混在し、林床にはアズマネザサが繁茂している場合が多く、つる性のサルトリイバラ、オニドコロ、ヤマノイモ、フジ、ミツバアケビ、スイカズラなどの侵入も多い。多摩市においては丘陵上部から中部にかけての、やや乾性な砂層や礫層の上に発達している。
クヌギ・コナラ群集は、前記コナラ・クリ群集と同様に、十数年に一度ずつは皆伐されてきた結果として成立している二次群落(代償群落)で、主要な樹種は切り株から芽を出して復元していく能力、すなわち萌芽力の強い樹種によって占められている(図2―4)。この群集はクヌギを標徴種として識別される落葉広葉樹林で、主に丘陵下部から沖積低地にかけて成立しており、薪炭材のほか落ち葉掃きなど農用林的性格の強い林であり、かつて徳富蘆花(とくとみろか)や国木田独歩(くにきだどっぽ)が雑木林(ぞうきばやし)、落葉林(らくようりん)として記述した林にもっとも適合した林である。ただクヌギは、かつて佐倉炭と呼ばれる上質の炭材として市場価値が高かったことから、丘陵の中部から上部にかけても人為的に植林が行われた形跡が部分的に認められる。
図2―4 クヌギ-コナラ群集(雑木林)
この群集は、コナラが高い被度で優占し、それにクヌギやエゴノキが混在する状態が普通で、エノキやスイカズラ、アマチャヅルなどを含むことで特徴づけられる。落ち葉掃きなど農用林として人手のよく入った林では、一般的に林内はよく刈り込まれていて、高木層または亜高木層と草本層の二段階層となっている場合がほとんどで、林内は明るく見通しがきくが、近時における農業の衰退から経済的価値を失った林が多くなり、このような林では管理不充分からアズマネザサが密生し、そのために林の構成要素となるべき植物の種類がいちじるしく減少している。
都立桜ケ丘公園内の丘陵脚部のような湿潤の地にあっては、一部ハンノキの生育が認められる。ハンノキは根に空中窒素を固定するバクテリアが共生し、他の樹木が侵入できないような過湿な立地や、貪栄養な裸地にいち早く侵入して林を作る。かつては市内各所に存在した谷戸奥の湿地にハンノキ林があったことは、隣接する八王子市別所長池のハンノキ林、多摩ニュータウン建設で消滅した乞田の岩ノ入大池のハンノキ林などから証明できるが、現在ではそのような広がりを持った群落として存続している林分を探すのは難しい。