人の手によるもの

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生産、緑化、造園などの目的で植栽、管理された樹群で、人為的に成立した林であり、代償植生の範疇(はんちゅう)に含まれる。多摩市で認められるものとしては、スギ・ヒノキ植林、モウソウチク林、ニセアカシア林、落葉果樹園、桑畑、植木畑、植栽樹群などがある。
 スギ・ヒノキ植林は用材として有用性の高いスギやヒノキを育林しているところで、多摩市内では丘陵脚部、谷戸の奥の湿性なところなどに造林されているものの、それほど広い面積を占めているところはない。林分はスギ、ヒノキが優占しており、一般的に斜面下部にはスギを、中部から上部にかけてヒノキを植林しているが、スギ、ヒノキそれぞれの単純植林、あるいは混植もところによって見受けられる。常緑針葉樹であるため林内は暗く、草本層および低木層ともに発達が悪い。とくにヒノキ植林地においては林床の草本類もいちじるしく抑制されている場合が多い。その点谷戸奥の湿潤な環境にあるスギ植林地にあっては、しばしばシダ類をはじめ陰地性の草本、常緑低木などがよく繁茂している。
 モウソウチク林は丘陵や台地の脚部、農家の裏、川岸などに植林されているが(図2―5)、その後の自己増殖によってクヌギ・コナラ林やスギ・ヒノキ植林内に分布を拡大している部位も認められる。かつては多摩市内の竹林の多くは農用材として用途の広いマダケが中心となっていた。また川岸にも堤防保護の目的で広く成林していたが、しだいに食用としてより上質な筍を得ることのできるモウソウチクに転換されていった。とくに昭和三十九年(一九六四)前後にマダケが一斉に枯れたのを期に、モウソウチクに転換したところが多い。マダケやモウソウチクの林は農業と一体化した林分として多摩の農村景観に潤いを与えていたが、現在ではニュータウン造成にともなって放棄状態となった林が目立っている。

図2―5 マダケ-モウソウチク林

 ニセアカシアはハリエンジュともいい、北米原産のマメ科に属する落葉高木で、根に空中窒素を固定するバクテリアが共生することから、崩壊地や造成地の貧栄養な立地においても旺盛に生育することから、山地の土砂流出防止林として、緑化樹として広く植林されてきた。また、河川敷きや堤内地にも植林あるいは逸出により成林していることも多い。多摩市においては多摩川の堤内地や川沿いの急傾斜面に群落が認められる。
 前述のごとくニセアカシアは、貧栄養の立地を肥沃化していく能力は強いが、そのために根は浅く、かつ早い成長力のために根や幹はやわらかく、甲虫類により根際の食害を受けやすく、ために風倒をおこしやすく、また再び土砂崩壊の原因となった事例もある。また、高い窒素固定能力によって立地を過窒素状態とし、林の正常な遷移の進行を遅らせる結果を招く。多摩市においても、京王線鉄橋付近の堤内地にあるニセアカシア林が台風によって大部分倒伏した事例がある。
 落葉果樹園としては、多摩市内ではクリ園がもっとも多く、丘陵斜面や平地部分に小規模ながら栽培されている。カキの栽培も多く、とくに多摩地域特産のゼンジマル(禅寺丸)が多いのは注目される。禅寺丸は別名王禅寺丸、枝柿、キザ柿と呼ばれ、神奈川県柿生村王禅寺の原生で、順徳天皇の建保二年(一二一二)、等海上人の発見によるといわれている(図2―6)。果実は小形で丸く、果肉に褐色斑点が多く、甘味が強い。しかし、近年ではほとんど賞味されることはなく、放棄状態となっているところが多い。桑畑は、かつては丘陵、台地に広く栽培されていたが、現在ではほとんど姿を消している。前者にくらべ、近年比較的多く見られるのが植木畑であるが、育苗よりも仮植地のほうが多い。しかし畑から転換したところが多く面積的にはやや狭い。

図2―6 カキノキ(禅寺丸)

 植栽樹群としては、公園や団地の緑地、あるいは造成法面、道路のグリーンベルトなどの公共用地内に集団として植栽されている樹群がある。多摩市においては多摩ニュータウン造成後、面積、種類数ともに飛躍的に増大している。
 公園植栽では常緑広葉樹のヤマモモ、シラカシ、マテバシイ、クスノキ、ユズリハ、ツバキ類、カクレミノ、アオキ、トウネズミモチ、キンモクセイ、キョウチクトウ、サンゴジュなど、常緑針葉樹ではアカマツ・クロマツがとくに多く、ヒマラヤスギ、カイヅカイブキ、メタセコイア(図2―7)なども目立つ。落葉広葉樹ではケヤキ、ユリノキ、モミジバスズカケノキ、ソメイヨシノ、サトザクラ、カエデ類、ハナミズキ、リョウブ、ツツジ類、ハナゾノツクバネウツギなどが多い。

図2―7 メタセコイア並木(鶴牧)

 団地周辺の再生緑地では、残留緑地との関連で在来種の樹種を多く取り入れているが、ソヨゴ、ハクモクレン、ナンキンハゼ、イスノキなど暖地性の樹木もところにより植栽されている。
 街路樹も、ニュータウン開発にともなって昭和四十年以降急速に増加し、イチョウ、モミジバスズカケノキ、トウカエデ、エンジュなどの一般的な樹種のほか、アオギリ、クスノキ、ケヤキ、ソメイヨシノ、ハクウンボク、アキニレ、トチノキ、シダレヤナギ、メタセコイア、マテバシイ、コブシ、ユリノキ、ハナミズキ、モミジバフウ、ハナノキなど二〇種類ほどに達している。
 造成法面では貧栄養な土壌条件にも適応できることからクロマツやアカマツが多く植栽されている。学校の校庭など公共施設の再生緑地ではサクラ類が多い。
 多摩市には、第二次大戦前から旧多摩聖蹟記念館周辺をはじめ桜の名所として親しまれてきた個所がいくつかあり、市の花にも指定されていることもあって、桜を植栽しているところが多い。
 多摩市内にはゴルフ場が二か所あって、大きな面積を占めている。このゴルフ場内にある緑地は、かつての林の形態をそのまま利用したところと、植栽によるものとがあるが、ともに面積は狭く、林床の整備が徹底しているために低木層、草本層ともにきわめて貧弱となっていて、植栽樹群に等しい状態となっているところが多く見られる。