空き地の雑草

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長い期間放置された空き地、定期的な刈取りが繰り返されている立地、やや乾燥した河原などにはススキやトダシバ、チガヤなど、イネ科の多年生草本群落が成立している場合が多く、このような群落型はススキ群綱にまとめられている。
 ススキ群落は、ススキの優占する群落で、造成後の空き地、造成法面、畑放棄地、盛土後放置期間の長い道路予定地などに成立している。
 トダシバ群落は、トダシバが優占する群落で、オトコヨモギ、イチゴツナギ、ノイバラなどを特徴的に含んでおり、多摩川の土手や河原などのやや乾いた砂礫質のところに成立している。
 チガヤ群落は、チガヤの優占する群落で、比較的土壌が浅く、地下水層が地表に近いところにある場合、埋め立て地などで不透水層が地表近くに生じている場合、すなわち水はけの悪いところなどに成立しやすい。また水田や水田まわりの草地で、刈取り頻度の高いところにしばしばチガヤ群落が成立する。
 池沼のふち、流れのゆるやかな川辺、耕作を放棄した水田など、過湿なところや冠水の浅い湿原などにはヨシやツルヨシ、ガマ、カサスゲ、オギなどの多年生草本群落が成立している。このような群落型はヨシ群綱にまとめられている。
 ヨシ群落は、ヨシが密に群生している群落で、多摩川や大栗川下流の泥質の水湿地や、長期間放棄されている水田跡地などに成立している。
 ツルヨシ群落は、ツルヨシが密に群生している群落で、多摩川や大栗川下流域のやや砂礫質の河原に群生する。ヨシに類似するが、匍匐枝(ほふくし)は地下を横走せず、地表を這い節ごとに発根して繁殖することから、流れの早い、礫の多い立地にもよく適応して群落をつくる。
 オギ群落は、オギの優占する群落で、多摩川中流域の一段小高い河川敷に大きな群落を形成し、特有の景観を見せている。オギはススキに類似するが、小穂にのぎがなく、地下茎は浅い土壌中を匍匐し、再生力が強く、茎の下部は葉を落として笹の幹に類似し、洪水時の流れにも耐えて繁殖する。近年洪水の頻度が低下した多摩川中流域の河川敷にあって特徴的な景観を示している(図2―8)。また、礫質の造成裸地や耕作放棄水田にも侵入して群落をつくっている場合もしばしば見られる。

図2―8 多摩川のオギ群落

 このほか、泥質の浅い水域ではガマ群落やサンカクイ・コガマ群落なども成立している。これらの群落は多摩川の河川敷や耕作放棄水田にしばしば見られるほか、造成裸地のくぼみなどに形成される水溜りなどにも先駆的に出現することもある。多摩丘陵をはじめとして丘陵の谷戸の奥の湿地などには、しばしばカサスゲやミヤマシラスゲの群落が成立していることが多いが、多摩市においても、わずかではあるが残された谷戸奥にほそぼそと命脈を保っている。耕作を放棄した湿田にはセリ、ミゾソバ、チゴザサなどを識別種とするオニスゲ・チゴザサ群落が認められる。やや乾燥したところでは、コブナグサやイ、アゼガヤツリなどが多く、過湿なところではイボクサ、オモダカ、カズノコグサ、ヤノネグサなどが多い。このような群落はさらに長く放棄されることによって、やがてヨシ群落へと遷移していくことが推定される。
 道端や空き地、土手の法面、河原の高水敷などには、双子葉植物の多年生草本を主とした群落(ヨモギ群綱)が成立している。多摩市内においてこの群綱に比定される群集、群落としては、イタドリ群落、ユウガギク・ヨモギ群集、マルバヤハズソウ・カワラノギク群集、カワラヨモギ・カワラサイコ群集、メドハギ・ヨモギ群落などが見られる。
 イタドリ群落は、富栄養な土手の法面、路傍、空き地などに成立する広葉の多年生草本群落で、イタドリが優占する群落である。
 ユウガギク・ヨモギ群集は、沖積低地や台地の空き地、路傍などに普通に成立している広葉の多年生草本群落で、ユウガギク・ヨモギのほかチカラシバ、ゲンノショウコ、ヒナタイノコズチ、スズメノヒエなどを標徴種、識別種とする群集で、除草や立地の乾湿などの条件によって構成種に変化が出てくるが、踏みつけなどのやや少ない部分に成立する。
 マルバヤハズソウ・カワラノギク群集は多摩川中流の河川敷をはじめ、関東地方の河川中流域に特徴的に成立する群集で、カワラノギクを標徴種とするほか、メドハギ、マルバヤハズソウ、ムラサキエノコログサ、ヘラオオバコ、オトコヨモギ、テリハノイバラなどを含み、冠水の確率の少ない高水敷の砂礫上に成立する。多摩市においては昭和五十年代後半にはまだ残存していたが、その後遊歩道造成など環境が悪化し、カワラノギクの姿もほとんど見られなくなってしまった。
 カワラヨモギ・カワラサイコ群集も前記マルバヤハズソウ・カワラノギク群集と同質の立地に成立するが、より安定した乾燥した砂礫地に成立している。カワラサイコ、カワラヨモギを識別種とする群集である。この群集も前記群集とともに多摩市では現在ごく狭い範囲に認められるのみとなっている。
 メドハギ・ヨモギ群落は、多摩川の高水敷のうち粘土質の多い立地や、グラウンド造成の辺縁部など、保水力のある、やや富栄養化の進んだ立地に成立している。