タマノカンアオイ(ウマノスズクサ科)

158 ~ 159
 関東地方南西部の、多摩丘陵を中心としたごく狭い範囲(西限は高尾山、北限は狭山丘陵、東限は府中市浅間(せんげん)山、南限は横浜市青葉区恩田町)に分布する常緑の多年草で、葉は卵状楕円形で長さ一〇センチメートル前後、質厚く、表面は暗緑色でやや光沢があり、脈は少し凹入し短毛がある。裏面はふつう紫色を帯びる。花は葉柄の基部につき、四月ごろ開花する。萼筒は鐘形で先は三裂し、紫褐色で、裂片のふちは波うつ。喉部につば状の環がある。昭和六年(一九三一)牧野富太郎が現在の川崎市生田緑地付近で採集した標本をもとに命名したものである。本種はアマギカンアオイ、シモダカンアオイと近縁で、フォッサ・マグナ東端で分化発展したものと考えられている。多摩市においては残留緑地部分の林床に広く分布し、生育地の地層は中期洪積世のころに堆積した御殿峠礫層またはそれに比定される河成層上、またはその上に堆積した多摩ローム層にのみ分布している(図2―12)。

図2―12 タマノカンアオイ