姿を消した獣たち

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すでに絶滅した哺乳類では、かつて多摩地方にオオカミが生息していた話が伝わっている(図3―1)。時は江戸時代末期の元治元年(一八六四)のこと、乞田川の支流の「狼谷」と呼ばれていた沢地で変死人が発見されたが、検死役人の到着が遅れて夜に入ると、狼の数が次第に増えてきたので、翌朝まで焚火を続けて警戒したということである(菊池山哉一九六二)。オオカミと同じ食肉類に属し、その毛皮が珍重されるテンは、オオカミよりも後年まで生き残っていたようで、往時、連光寺に設けられていた宮内省御猟場の有害動物として、明治十七年(一八八四)十二月に、貝取で一頭捕獲された記録が残っている(川田寿一九七〇)。多摩市域で最大の野生哺乳類はイノシシとシカである。この両種は、農家にとっては有害動物で、東寺方の佐伯家に伝わる享保八年(一七二三)の古文書の中に、「猪や鹿が田畑を荒らすので鉄砲で威したい」という嘆願書が残っているほどであるが、この両種が生息していたのは明治時代までのことで、大正中期~昭和初期(一九二〇~一九三〇)の頃に、ほぼ同時に滅んでしまったようである。昭和五十九年(一九八四)六月に、連光寺のゴルフ場の付近に出没して生け捕られたシカは、多摩の野生シカではなく、飼育されていた個体であったようである。

図3―1 オオカミ
P.F.シーボルト編「日本動物誌」第3巻(1844年刊)に掲載された図