多摩の小獣類

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多摩市域に現存する野生獣類を分類順に概観してみよう。モグラ類は、地表棲のヂネズミ、ならびに、地中棲のヒミズとアズマモグラが分布している。ヂネズミは、体長が七センチメートル前後、尾の長さが約四~五センチメートルで、多摩市最小の獣類である。繁茂した雑草地に棲み、かつて、連光寺の荒畑の雑草の下蔭で見つけた巣内には、体長三五ミリメートル、体重二グラム未満の五子が入っていた(昭和五十八年七月十二日)。ヒミズは、体長が約一〇センチメートル、尾が約三センチメートルの小形のモグラで、日本固有種である。耳(耳介)が無く、貧弱ながらも手は小形のシャベルとして機能し、柔らかい表土の下に住んでいる。アズマモグラは、おもに本州の中部以北に分布する大形のモグラで、体長が約一四センチメートルあるのに比べて、尾が二センチメートル前後と短く、土を掻く手は大きなシャベル状で、ヒミズよりも地中生活に適応した体形を備えている。地下にトンネルを掘り進んで、田畑の土を持ち上げたり、坑道の土を地上に押し出して塚(盛土)を造るので、以前は農家や園芸家に嫌われたが、今回モグラ塚を見たのは、五地域(桜ケ丘公園・一本杉公園・豊ケ丘北公園・多摩川河川敷・大栗川堤防)にすぎなかった(図3―2)。コウモリ類は、自由に空を飛び回ることができる唯一の哺乳類で、多摩市域では二種記録されている。アブラコウモリは、イエコウモリの別名どおり、古い木造家屋などに棲む小形の種類で、建築様式の近代化に伴って激減した。今回、桜ケ丘公園で夜空を目まぐるしく飛び回る姿を目撃した(平成七年五月三十日)。ヤマコウモリは、翼を拡げた長さ(翼開長)が三〇センチメートルを超える大形種で、昼間は樹洞に隠れ、日没後に飛び出して、鳥のように高速に一直線に飛行して、主にカミキリムシなどの大形甲虫類を捕食する。古木の激減と共に、繁殖・冬眠用の樹洞が無くなって、近年では、昭和四十一年(一九六六)九月に連光寺で記録されただけである(金井郁夫による)。雑木林や草地に棲むノウサギは、飼ウサギとは違って特に巣を造らず、子は有毛・開眼の状態で生まれ、すぐに駆け出すことができる。明治年間に、連光寺に設けられていた宮内省御猟場での捕獲記録を見ると、明治三十八年(一九〇五)の三日間のノウサギ猟の成果は三五〇頭で、同三十九年の七日間で四二〇頭、同四十年の六日間で四六〇頭などと記載されている(内田清之助による)。近年では、筆者は連光寺で成獣(昭和六十一年三月三十一日)と、幼獣(同六十一年五月二十二日)各一頭を目撃したにすぎない。市域で記録されたネズミ類は五種で、野ネズミ類と家ネズミ類に分けられる。野ネズミ類の代表はハタネズミで、体長が約一一センチメートル前後、尾が四センチメートル程度である。日本固有種であると同時に農林業の大害獣でもあるが、農地や緑地面積の減少とともに、あまり問題にされなくなってしまった。野ネズミ類の中で、消滅が危ぶまれるのはカヤネズミで、イネ科・ガマ科・カヤツリグサ科などの繁茂する草地に生息している。体長が六センチメートル前後、尾が七センチメートルあまりあって、体長より長い尾を茎に巻きつけて丈の高い草を上下する。出産用の巣は、ススキやチガヤなどの地上五〇~六〇センチメートルの位置に、チガヤなどの葉を用いて球形に造られ、一見小鳥類の巣のように見える。連光寺の農林水産省多摩試験地(元鳥獣実験場)の湿地で発見した巣内には、目の開かない六子が入っていた(昭和三十六年十二月五日)。アカネズミは、日本固有種で、体長が約一二センチメートル、尾が一〇センチメートル前後あって、名前のとおり、背面が美しい赤褐色である。多摩市域では、おもに丘陵地の雑木林に生息しているが、多摩川河川敷の茂みにも住んでいて、分布は普遍的である。家屋に侵入して、食品や残芥(ざんかい)をあさるドブネズミとクマネズミは、代表的な家ネズミであると同時に、代表的害獣でもある。ドブネズミは、体長二〇センチメートル以上の大形種で、名前のとおり、下水・地下倉庫・ごみ捨場・河川敷などの低湿地に棲んでいて、雑食性ながら、クマネズミよりも動物質を好む傾向がある。クマネズミは、平均体長二〇センチメートル以下で、ビルの上階部や人家の天井裏など比較的乾燥した高所に生息している。以前は、農家の物置小屋などにはクマネズミが住んでいたのが常で、連光寺の多摩試験地でも、倉庫の中から一度に一〇頭前後も跳び出したり、あるいは、養鶏用の配合飼料を求めて毎夜室内に出没していた(昭和三十五年十二月)。

図3―2 モグラ塚
アズマモグラが坑道の排土を地上に押し出してできた盛り土