ネズミ類の天敵として有益な食肉獣では、イヌ科に属するタヌキとキツネ、ならびに、イタチ科に属するイタチとアナグマが、多摩市域に生息している。タヌキとアナグマは、互いに混同され、「むじな」・「はちむじな」・「かげむじな」・「まみ」などの俗称で呼ばれる場合が多く、その話の内容をよく吟味しないと紛らわしいことがある。例えば、「多摩町誌」(一九七〇)の「民俗」の中で紹介されている「むじな」(貉の字を用いている)は、動物分類学上のタヌキのことであり、また、「まみ」(狸の字を使用している)は、ここではアナグマをさしている。イヌ科のタヌキは、前足の指は五本、後足の指は四本で、イタチ科のアナグマに比べて脚が長い。タヌキは、連光寺の多摩試験地構内など、安全な環境下では、白昼にも姿を現わすことがあった(昭和六十三年七月五日)。イタチ科のアナグマは、前・後足とも指の数は五本で、頑丈な長い爪をもっている(図3―3)。脚が短く、地面を嗅ぐように低い姿勢で歩行する。タヌキに比べると生息数はごく少ないようで、近年の記録は、関戸・落合・唐木田での三例にすぎない(金井郁夫による)。キツネは、タヌキよりも用心深く知能的で、民話などには悪役として登場する場合が多い。野ネズミや野ウサギなど農林業の害獣の天敵として有益である反面、家禽などを襲う場合もあり、連光寺の多摩試験地構内のキツネの巣穴の前に、鶏(白色レグホン)の羽毛が散乱していたことがあった(昭和六十二年五月十二日)。イタチは雄雌で体形差が著しく、雌は、雄に比べて遥かに小形で、時には、イタチの子か、あるいは別種かと誤認される場合もあるらしい。雄の方が行動範囲が広くて、目に触れる機会も多く、昭和三十七年(一九六二)十月に、関戸の多摩川河川敷で見た個体も、また、同三十八年三月に多摩試験地のキジ類を狙って現れたのも雄イタチであった。ネズミ類の増加を抑制する天敵としての有益性が評価されないで、有害な一面だけが強調されがちである。
図3―3 アナグマ
「クマ」の名がついてもイタチ科。タヌキが同居する場合があり、「同じ穴のムジナ」の語源となった