多摩丘陵の鳥

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多摩丘陵は、ツグミなど渡り鳥の飛来コースに当たっていたので、その渡り鳥を霞網(かすみあみ)で捕らえる慣習があった。八王子の野猿峠・日野の百草台・多摩の大松台など、かつて多摩丘陵の各所に霞網の拠点(網場)が存在していた。和田地区の北に隣接する台地に、ツグミ(俗称ちょうまん)の捕獲場所であったことを示唆する「ちょうまん平(ぴら)」という地名が残っている(図3―4)。江戸時代の元文元年(一七三六)に編まれた「武蔵国多摩郡産物絵図帳」の中にも、多摩郡の鳥類の筆頭に「ちょうまん」の名が見える。

図3―4 ツグミ
多摩地方の代表的な冬鳥。古来より「ちょうまん」の名で知られる

 多摩丘陵の鳥を概観すると、春は鳥の姿そのものよりも、ウグイスの囀(さえず)り・キジの雄叫び・けたたましく人を呼ぶようなコジュケイの大声などが耳に入りやすい。この季節は、ちょうど野鳥の求愛・繁殖期に当たるので、雄が雌を誘い、あるいは縄張りを主張して、最も盛んに囀り続ける。シジュウカラ・ヤマガラ・メジロ・ホオジロなど留鳥の鳴声に、多摩市域で冬を越したヒガラ・カシラダカ・アオジなどの冬鳥や、渡りの途中に立ち寄って行くコルリ・クロツグミ・メボソムシクイ・センダイムシクイ・キビタキなどの夏鳥(多摩市では旅鳥)の囀りが加わるので、春の四月から五月は一年中で最も丘陵が賑わう季節である。盛夏の七月から八月は、ほとんどの野鳥は繁殖が終了して囀りも稀になり、耳につくのはセミ類の声だけである。たまに林間に聞こえる鳥の声は、キジバト・アオゲラ・コゲラ・ヒヨドリ・オナガ・ハシブトガラスなど季節感のない留鳥の声と、巣立ちした幼鳥を伴ったシジュウカラ・ヤマガラ・エナガなどの混成群の紛らわしい声(地鳴き)ばかりである。秋の十月から十一月は、ジョウビタキ・シロハラ・ツグミ・カシラダカ・アオジ・シメ・カケスなど、多摩市域で越冬する冬鳥の渡来期である。ノゴマやエゾビタキなどの旅鳥が姿を見せるのもこの季節である。厳冬期の十二月以降には、ツグミ・シロハラなどの常連のほかに、時には、ミソサザイ・カヤクグリ・ルリビタキ・ミヤマホオジロ・アトリ・マヒワ・ベニマシコなどの冬鳥も姿を見せ、稀に連光寺で、ガマズミの実をあさるアカコッコを確認したこともあった(昭和六十三年一月二十一日)。