川辺の鳥

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多摩川の鳥を概観すると、春の四月から五月は、北帰行直前のコガモやユリカモメなどの群、求愛の声をだして忙しく飛び回るコチドリやイソシギ、求愛・採餌(さいじ)に忙しいヤマセミやカワセミ、囀りながら河原を歩くハクセキレイやセグロセキレイなど水辺の鳥に加えて、雄々しく高鳴くキジ(図3―5)、河原の上空で囀り続けるヒバリ、アシ原で喧しく囀るオオヨシキリ、中空へせっかちに鳴き上るセッカなどの草地棲の鳥が特徴的である。この季節に多摩市域の多摩川で記録されたシギ・チドリ類は一九種で、キアシシギ・アオアシシギなど常連の旅鳥のほかに、ハイイロヒレアシシギ・セイタカシギなどの迷鳥も含まれている。夏は、丘陵と同様に、水辺でも鳥の声は減少するが、巣立った幼鳥を混じえたムクドリの群、水辺で餌を狙うコサギ・ダイサギ・アオサギ・ゴイサギなどのサギ類、成長した雛(ひな)を伴うカルガモの家族群、支流の大栗川のニセアカシアなどの枝にとまって、水中の魚影をうかがうヤマセミの姿などを見かける。秋は、旅鳥のキアシシギ・アオアシシギ・トウネンなどのシギ類の渡来に始まる。まれには、関戸多摩川でエリマキシギを確認したこともあった(昭和三十六年九月二十六~二十九日)。この季節に市域多摩川で記録されたシギ・チドリ類は二五種に達している。繁殖を終えたツバメ・イワツバメ・コシアカツバメなどが、多摩川上空を乱舞するのもこの季節である。カモ類の中では、コガモが最も早く九月に姿を見せるが、この時期のカモ類は雄雌とも羽色がほとんど同じで紛らわしい。冬の多摩川を代表する鳥はカモ類で、市域の多摩川で一九種が記録されている。比較的個体数が多くて目に触れやすい種類は、留鳥のカルガモ、冬鳥のマガモ・コガモ・ヒドリガモ・オナガガモ・ハシビロガモなどであろう。ミコアイサは、雄の羽色が白っぽく、特に目の周りが黒くて目立つので、渡来数が少なくても、「パンダガモ」の愛称で知られている。ミコアイサが、この水域に姿を見せ始めたのは昭和四十四年(一九六九)頃で、銃猟禁止区域に指定された年と時期的にほぼ一致する。禁猟以後、関戸橋付近で、オオハクチョウ(昭和五十一年十二月)や、マガン(昭和五十三年十一月)が記録されたこともある(津戸英守による)。河川敷に群れる小鳥や水鳥を狙って、オオタカ・ハイタカ・ツミ・ハヤブサ・チョウゲンボウなどのタカ類がしばしば出現するのもこの季節である。

図3―5 キジ
日本の国鳥。多摩市域では丘陵や河川敷の草地に棲む


図3―6 多摩川の鳥
留鳥のカルガモ(左)とコサギ(手前)に冬鳥のユリカモメ