多摩のヘビ類

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爬虫類の中でも、特にヘビ類は、見つかり次第殺される不幸な運命を背負っているようである。しかし、ヘビが生息しているということは、とりもなおさず、ヘビ類の餌となる小動物(カエル類・小鳥類・野ネズミ類・モグラ類)も、確実に生息している事実を示すもので、云わば、自然環境の良好度を示すバロメーターでもある。かつては人家の屋根裏や物置などに棲みついていたアオダイショウは、日本最大のヘビで、時には体長が二メートル以上にも成長するが、一五〇センチメートル前後の個体が普通である(図3―14)。大形であっても、性質は温和で、人に危害を加えることはないが、捕らえると、悪臭を出すのが欠点である。家屋に棲んでいるアオダイショウは、家ネズミを駆除する天敵として有益であるが、野外に棲んでいるものは、シジュウカラなどの野鳥の巣を襲って雛を呑みこんだりするので、有害な一面もある。シマヘビは、その名前のとおり、背に四本の黒い縞(縦条)が通っていて、アオダイショウの縞よりも著しく目立つ。市域では、アオダイショウに次ぐ大形のヘビで、成長すると、全長が一メートルを超える。カエルやトカゲ類などの小動物を主食にしていて、獲物を追跡したり、外敵から逃れる時のスピードは特に速い。ヤマカガシは、緑褐色の体に、黒・黄・赤の模様が入り交じり、見るからに毒々しい。近年まで無毒蛇と考えられていたが、頸部には毒腺があり、口内の奥には毒牙がある。首筋を掴んだりすると、頸腺から噴射される毒液で失明する恐れがあり、また、奥牙で咬まれたりすると、抗毒血清が無いので、マムシよりも注意を要する。主食であったカエル類の激減に伴い、幸か不幸か、ヤマカガシも著しく減少してしまった。マムシは、頭部の形が三角形で、背中に円い銭形模様が並んでいるのが特徴である。毒蛇として怖れられるが、積極的に人に向かってくるようなことはない。マムシの食性はハタネズミなどの野ネズミ類が主食で、また、強壮食品としての評価も高いので、生態的にも経済的にも有益なヘビである。ヂムグリは、腹面が黄赤色で、四角形の黒班が並んでいて美しく、性質も温和で、野ネズミやモグラ類を専門に捕食するので、最も有益である。ヒバカリは、全長五〇センチメートル前後の褐色のヘビで、目の下から頸へ斜めに走る黄色条斑が特徴である。主食はカエル類で、以前は水辺で見かける場合が多かったが、獲物の激減に伴って減少した。市域で最も個体数が少ないと考えられるヘビは、タカチホヘビとシロマダラであろう。タカチホヘビは日本最小のヘビで、全長が三五センチメートル前後で、背中の中央に黒条(背中線)が通っているのが特徴である。体鱗は重なっていないので、乾燥に対して弱く、日中に姿を現わすことは滅多にない。今回、連光寺三丁目の路上で、干枯らびた轢死(れきし)体を見た(平成七年七月二十六日)。シロマダラは、淡褐色の体に、輪を巻きつけたような黒色帯があり、全体的に白黒まだら状に見える。森林性で、連光寺の多摩試験地の森林内の湿った落葉の下で見つけたことがあった(昭和五十八年六月二十日)。

図3―14 アオダイショウ
日本最大のヘビに似合わず性質は温和。家鼡の天敵として有益