生物生態系の中で、中間捕食者の地位を占めているカエル類の激減は、ヘビ類・鳥類・哺乳類など高位捕食者の減少にも連鎖的につながってゆく。特に減少の著しいのは、ヒキガエルとトウキョウダルマガエルである。以前には、前者は雨上りの庭先などに姿を見せて、「がまがえる」の名で親しまれ、後者は「殿様がえる」の名で、水田などの典型的小動物であった。ところが、今回は多摩市域で一度も生息を確認できなかった。それに比べて、健全なのはウシガエルである。ウシガエルは、大正~昭和初期(一九二〇~一九三〇)に、アメリカから「食用蛙」として移入されて広まった。かつては、連光寺の多摩試験地の池にも生息し、昭和三十六年(一九六一)四月に、三頭捕獲したことがあった。現在では、中沢池公園や多摩川水系が主な生息地である。ウシガエルは、生まれた年は幼生(おたまじゃくし)の姿で冬を越すので(図3―15)、中沢池公園では、十月中旬にも大形の幼生が多数泳いでいた(平成七年十月十五日)。多摩川では本流よりも、支流の大栗川の合流点から上流、報恩橋~東寺方橋に生息し、今回(平成七年)四月から九月までの期間に、ブォーッ、ブォーンなどと聞こえる唸るような鳴声を確認した。騒々しい声の持ち主はアマガエルで、まだ水田に水が入らない頃から、庭先の植込みなどで、クヮッ、クヮッ、クヮッ(キャッキャッキャッ)と鳴きたてる。背面が緑色で、指先に吸盤があり、一見シュレーゲルアオガエルに似ているが、鼻孔から鼓膜(こまく)まで、目を通る黒い条がある。周囲の環境に応じて、体色が黄褐色~暗褐色に変化し、保護色の好例でもあるが、変色能力に個体差があるらしい。今回、鳴声により生息を確認した地域は、和田・東寺方・一ノ宮・連光寺・関戸・中沢池などで、カエル類の中では最も普遍的であった。ウシガエルやアマガエルの声に比べて、耳触りの良い声はシュレーゲルアオガエルである。カエル類としては美声の持ち主で、コロコロコロコロ(リリリリ)と旋律的に鳴く。水田など水辺の土の間に白い泡状の卵塊を産みつけるのが特徴で、今回、和田地区の僅かに残っていた水田で卵塊を確認した(平成七年六月四日)。カエル界随一の歌い手はカジカガエルで、渓流の音に合わせるように、フィッフィッフィッ、フィリリリーと、時には高く、あるいは低く鳴き続ける。カジカガエルの現在の分布域は、多摩川上流の秋川や浅川などの清流であるが、今回、全く予想外にも、多摩川合流点直前の連光寺大栗川の浅瀬において、美声で鳴く一頭を発見した(平成七年五月四日)。その後(五月十一日以後)は、水量増加により浅瀬が消失して、再び認めることはできなかった。ただ一回の記録にすぎないが、清流復活の兆しであるならば幸いである。
図3―15 ウシガエルの幼生
その年に生まれた「食用蛙」は「おたまじゃくし」の姿で冬を越す