市内で見られる昆虫の特徴

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現在多摩市と呼ばれている地域の、今から三〇年ほど前までのおおむねの自然環境は、丘陵の雑木林の自然そのものであった。その山林を切り開いて、多摩ニュータウンの造成が行われたわけである。そのため、現在もなお市の一部や、点々と残る緑地に、クヌギやコナラを主体とした雑木林の面影が残っている。それゆえ、多摩市内の昆虫類の概要は、一言で言うと「雑木林の昆虫類が主体である」と言ってよい。事実、そういった場所を訪れてみると、雑木林に特有の昆虫類が今なお健在であったりする。
 しかし、多摩市の昆虫類を解説するとき、それだけでは足りない。地図を見て、市の東北部に目をやるとそこには多摩川がある。川やその周辺には、雑木林とは全く異なった昆虫類が生息しているからである。また、「川」と一口に言っても、上流域と下流域では生息している種類がこれまた全然違う。そうした視点で多摩川全体を俯瞰(ふかん)すると、多摩市が位置しているのは、中流域であることがわかる。したがって、多摩市の昆虫類の概要は、丘陵の雑木林と中流域の川原に住む昆虫であるというふうに位置付けされる。
 さて、では先に雑木林の昆虫類について、その概要を具体的に述べてみたいが、昆虫の種類と関わりの深い垂直分布と植生という二つの観点から見てみよう。まず多摩市周辺の標高に注目してみると、五〇~一六〇メートル程度であり、これは平地および低山地性の昆虫類が生息している範囲ということになる。次に、多くの昆虫と関わりの深い植物に注目すると、雑木林を代表する樹木としてクヌギとコナラがまず挙げられる。そして尾根筋にはアカマツが点在するのが、関東地方の雑木林の特徴と言える。したがって、ごくおおざっぱな見方で行けばまず一方で、低山地性でクヌギやコナラやアカマツにたよって生きている虫たちが多摩市の昆虫を特徴づけているということができる。また、もう一方では川原や河川敷を主な住み家としている昆虫もいるわけで、これも垂直分布的に見ると中流域ということになり、川原には石がごろごろしているような状態で、土質は砂状である。川べりにはヨシやオギが生え、それに続いて背の低いイネ科の植物がグラウンドのように広がっている。つまり、湿地性でヨシやオギの中が好きなもの、また石の隙間を住み家とするもの、そして草むらを好む昆虫類も多摩市の昆虫を特徴づけているということになる。
 以上のことから、雑木林と河川の昆虫を中心に各論に入ることになるが、昆虫類は体が小さいために、人間から見れば取るに足らないごくわずかな空間さえ環境の差として敏感に感じ取っているらしく、雑木林の昆虫と一口に言っても、実際にはほとんどとらえどころのないほど多岐多様にその生活の場を、それぞれの種類がうまく分け合って生活しているというのが実状のようである。
 ところで、昆虫類は現在この地球上の動物の中で、最も多くの種類を含むグループで、毎年おびただしい数の新種がいまだに発表され続けている生き物である。したがって、前述の雑木林および川原の昆虫だけに限っても、一人の人間ではとても調べ切れない種類数を含んでいる。ちなみに、これまでの調査で採集できた昆虫類だけでも、すでに一五〇〇種を超えている。つまり、限られた範囲であっても、そのなかに生息する昆虫類全体を把握することは、不可能に近い作業ではあるが、できるだけ客観的に多摩市の昆虫類を解説する。