ガはチョウに比べて格段に種類が多く、おおざっぱに見積もって、チョウの二〇倍の種がいるものと思われる。ちなみに、これまでの記録によれば、すでに三〇〇種を超えているので、よく見られる種類と特徴的と思える種を選んで紹介する。まず、非常に小さいけれど特徴的なガとして、ホソオビヒゲナガを挙げたい。初夏、雑木林のへりにいる、名前のようにひげの長いガである(図3―20)。体長は一センチメートルに満たないが、ひげはゆうに体長の二倍くらいある。飛翔時は、まるで我々が凧を揚げているようにしゃくれた飛び方をする。メイガ類は種類が多いが、小型なので目につきにくい。トビイロシマメイガは、はねを広げても二センチメートル弱であるが、えんじ色に黄色の縁取りがあり、なかなかきれいである。夜、明かりに集まるので、アパートの壁にはねを広げて止まっているのを見かける機会は多い。マエアカスカシノメイガも同様な場所でよく見かけるガである。街路樹として植えられている桜には、いろいろなガの幼虫がいるが、誰でも見付けられる種類としてミノムシがいる。成虫はミノガといい、地味な褐色のガに変身する。オオミノガ、チャミノガなど数種を産する。ミノウスバは秋遅くに成虫が現われる風変わりな形をしたガである。ホタルガは、黒いはねを持ち、頭の部分が赤いので、蛍の色彩に似ているということで命名された(図3―21)。夏のはじめと秋口に成虫が見られる。昼間ふわふわと飛んでいることが多いので、見かける機会の多いガである。イラガは、成虫で姿を見る機会はあまりないが、繭(まゆ)を木の枝の又に作るので発見しやすい。特に葉の落ちた冬に、梅や柿の枝を注意深く探すと見付けられる。白い卵形の繭で、非常に硬いものである。ユウマダラエダシャクもよく見かけるガの一種である。幼虫が、庭木として植えられているマサキの葉を好んで食べるので、人家付近に多いのである。ウメエダシャクは、名前のように、幼虫が梅の葉を食べて育つ。成虫は昼間活動し、飛び方もふわふわと緩やかなので、目にする機会は多い。ウスキツバメエダシャクは夜間活動的だが、はねが真っ白で目立つため、昼間に木の葉や壁に止まっているのを目にする機会の多いガである。梅雨のころと秋の年二回、成虫が姿を見せてくれる。オビガは夜行性のガであるが、夏から秋の初めにかけて、駅やアパートの壁に止まっているのを見かける。黄色と茶色のまだら模様で、はねを広げると六センチメートル近くあるので、わりとよく目立つ種類である。クワコは、おなじみのカイコの原種となる種で、郊外では普通種である。多摩市近辺にも、かつては普通にいたが、最近はめっきりと姿を見かけなくなった。夜行性なので、昼間は駅やアパートの壁に止まっているのを稀に目にする程度である。マイマイガは繁殖力の強いガと見えて、様々な街路樹に幼虫の姿を見かける。そして、アパートの壁にくっついている繭を発見する機会も多い。成虫になると、雄はこげ茶色なのに雌は白っぽくて、まるで別種のように見える。卵で冬越しするが、産卵時に卵塊の上に自分の腹の毛をくっつけてカムフラージュする習性がある。
図3―20 ホソオビヒゲナガ
(川崎市麻生区黒川 平成7年5月20日)
図3―21 ホタルガ
(多摩丘陵 昭和52年9月25日)