コオロギ類に話題を移そう。エンマコオロギはコオロギ類の中では最も大きく、かつ普通にいる種類である。畑や田んぼの周辺に雑草として刈られた枯れ草の下を主な住み家としている。主に夜にヒョロヒョロヒョロリィーとやさしい声で鳴く。ツヅレサセコオロギは一回り小さなコオロギで、リーリーリーリーと同じテンポで長く続けて鳴く。それよりさらに一回り小さなコオロギとして、ハラオカメコオロギとミツカドコオロギがいる。こちらは両種ともリッリッリッリッと句切って鳴く。何々コオロギという名はつかないけれど、コオロギ科の昆虫は意外と種類が多く、我々に馴染みのスズムシやマツムシなどもコオロギ科である。残念ながら多摩市近辺では、両種とも野生状態でその声を聞くことはまずないが、近似種のアオマツムシは街路樹にごく普通に見られる(図3―44)。八月半ばを過ぎたころから、夜になると桜の木の上でリィーリィーリィーリィーと、けたたましいほどに鳴く虫が本種である。明治時代に外国から移入した種らしく、市街地には多いが、雑木林の中には入っていけないと見えて、以前から住んでいる在来の種類との住み分けができているように受け取れる。有名なカンタンもコオロギ科の昆虫である。ススキとクズの両方が混じって生えるような場所を好むので、そんな場所には比較的普通に見られる。カネタタキとクサヒバリは、一センチメートル足らずのコオロギ科の昆虫で、両種とも木の上で暮している。カネタタキはチン、チン、チン、と句切って鳴き、クサヒバリはチリリリリリーと風のごとく流れるように鳴く。一方、芝生などの生える地面でビィーッ、ビィーッと小さな声で鳴くのはマダラスズで、後ろ足の股の部分がまだら模様になっているのでこの名がついた。体長は八ミリメートル程度しかない。
図3―44 アオマツムシ