さて、最後はキリギリス科の昆虫である。その名もずばり「キリギリス」という名前の昆虫は、誰もが知っていて、暑い夏にチョン、ギィースと鳴くあの虫である(図3―45)。この虫は昼間草むらで鳴くが、大部分のキリギリス科の昆虫は夜行性である。樹木が比較的多い多摩市内には、樹上性のヤブキリも普通に見られる。こちらはシリリリリ…と鋭く涼しげな鳴き声の持ち主で、意外にも肉食性が強く、大きなアブラゼミまで捕らえて食べる大食漢でもある。もう一種肉食性の強い種としてウマオイがいる。こちらはスィーッチョの声で有名な鳴く虫であるが、案外実際にその声を耳にした人は少ないようである。鳴き声の周波数が非常に高く、騒音の多い現代では聞き取りにくいことが第一の原因であると考えられる。馴染みが全くないけれど、多摩市の特徴的な種としてシブイロカヤキリモドキというキリギリス科の昆虫も取り上げておきたい(図3―46)。春から初夏にかけて、暖かい夜にジィー…と非常に鋭く高い周波数で鳴くのが本種である。同じような環境にいて、同じような声で鳴く種類としてクビキリギスとクサキリがいて、誠にまぎらわしいが、本種はススキの生える場所を特に好み、鳴き声がやや太く聞こえるので、慣れればある程度区別がつくようになる。体長四五ミリメートル程度、体全体が褐色で、顔面のみ真っ黒で、口は汚れた肌色をしているので、実物を見れば即に本種とわかる特徴を持っている。多摩市内にはキリギリス科として他に、体の黒っぽいヒメギスがやや湿った草むらに、また普通の草むらにはツユムシが、そして雑木林の下草の上には、アシグロツユムシとセスジツユムシがいる。さらに、樹上性のツユムシとして、サトクダマキモドキという体長五五ミリメートルもある大型のツユムシも住んでいる。最後に、雑木林の下に生えるアズマネザサを主な住み家としているササキリという、体長二〇ミリメートルほどの鳴く虫が普通に見られる。
図3―45 キリギリス
図3―46 シブイロカヤキリモドキ♂
(多摩丘陵 5月)