市内で見られるトンボ

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トンボ類は有名なわりには、昆虫全体から見れば、種類数としては少なく、我が国で二〇〇種足らず、多摩市周辺では三〇種余りが記録できた程度である。トンボというと、普通夏の虫のイメージが強いが、春に活動する種類も少なくない。カワトンボは、名前の通り小川の流れるような場所に春一番に出現する細い体のトンボで、体は美しい金緑色をしている(口絵)。シオヤトンボはシオカラトンボを一回り小さくしたようなトンボで、これも春から初夏に見られる種類である(図3―49)。五月になるとサナエトンボの仲間が目立ち始める。多摩市にはヤマサナエが最も普通の種類で、ほかに数種類観察されているが、わずかな記録に留まっている。初夏を過ぎるころから、夏のトンボたちが種類数を増やしてゆく。市内の人工的な池にもシオカラトンボ、オオシオカラトンボ、コシアキトンボ、クロスジギンヤンマなどが見られる。もう少し自然度の高い場所ではハラビロトンボ、ショウジョウトンボなども見られる。見通しのよい池があれば、オオヤマトンボやギンヤンマの姿を見かけることも難しくない。梅雨のころになるとアカトンボの代表種としてアキアカネとナツアカネが出現するが、多摩市とその周辺の雑木林が残る場所ではマユタテアカネ、ミヤマアカネ、そしてヒメアカネの記録もある。成虫になりたての時は、どの種類も黄色っぽい色彩だが、秋にはこれらのトンボたちの雄は体が赤く色付いて、文字どおりのアカトンボに変身する。アカトンボの仲間とよく間違えられるトンボとして、ウスバキトンボがいる。このトンボは、熱帯地方で繁殖を繰り返しているものの一部が、暖かくなる夏に日本のほうまで北上してくる大移動型のトンボである。有名な大型のオニヤンマは、どちらかというと秋に姿を見かけることが多い。林のへりを悠々と往復している姿がよく観察できる(図3―50)。イトトンボ類ではアジアイトトンボとクロイトトンボが普通で、成虫越冬するオツネントンボやホソミオツネントンボの記録もある。

図3―49 シオヤトンボ
(多摩丘陵 昭和56年5月5日)


図3―50 オニヤンマ
(多摩丘陵 昭和55年9月)