旧石器時代も、他の時代がそうであるように、進歩のない不変の時代ではない。約六〇万年前に始まった旧石器文化も遅い歩みではあったが、確実に変化しており、その様子は彼らが残した遺跡や遺物に反映されている。
前期旧石器時代から始まる日本列島の旧石器時代は大きな意味で世界の旧石器文化と同様な変遷を遂げる一方、列島固有の変遷を遂げている。なぜ旧石器文化は世界で同様の変化を遂げるのか、なぜ列島の固有性が生じるのか、そうした問題は冒頭の大きな問題を考える糸口になるはずである。多摩市の旧石器時代遺跡から、こうした課題を直接導き出すことはできないが、こうした大きな課題を解決する糸口の一つとなるといえよう。
ところで、どのようにしたら、石器群を年代順に並べることができるのだろうか。普通、地層は下にあるものほど古い。とすれば、同じ遺跡でも深い地層から出土した石器群のほうが古い。したがって、こうした深さや地層の異なる石器群が重なって発見されれば、石器群の年代順を知ることができる。多摩市豊ケ丘の多摩ニュータウンNo.七六九遺跡は、いくつもの石器群が上下に重なり、石器群の年代順を知ることのできる遺跡の一つである。入念な調査の結果、五枚の文化層が発見され、上から順に第一文化層から第五文化層と名付けられている。それぞれの文化層で発見された石器には、作り方や形態に特徴がある。こうした特徴を比較することで他の遺跡で出土した石器群との新旧関係を知ることができる。多摩ニュータウンNo.七六九遺跡で確認された石器群の新旧関係はこれまで知られている他地域の石器群の変遷とも一致し、多摩市を含めた多摩丘陵の石器群の変遷を良く表わしている(図4―4)。
図4―4 多摩ニュータウンNo.769遺跡の石器群の変遷と遺物分布集中地点
『多摩市史 通史編1』「第4編 原始および古代 第1章旧石器時代」 訂正文(平成15年3月 多摩市教育委員会)